事例を通してマーケティングの原則を学ぶ
今回は足立光氏と土合朋宏氏の共著である『世界的優良企業に学ぶ 「あなたの知らない」マーケティング大原則』をご紹介します。
足立氏はP&Gジャパン、日本マクドナルドなどでの活躍後、現在ナイアンティックのシニアディレクターとしてアジア太平洋のプロダクトマーケティングを指揮しており、土合氏は日本コカ・コーラや20世紀フォックス ホームエンターテイメントでの経験を経て、現在外資系映画配給会社でマーケティングを統括する立場にあります。
本書は、マーケティングの実務者に向けて「困った時に、すぐ使える本」として作られています。大きな特徴は、世界の優良企業におけるマーケティング事例や業界キーパーソンとの対談を通し、マーケティングの「原則」を解説していることです。
原則と聞くと実務を遂行するにあたって回りくどいように感じられるかもしれませんが、序文で述べられている、昨今の「マーケティング」という言葉を取り巻く状況や実務者の抱える課題からは、原則を知るべき理由が見えてきます。
本来の「マーケティング」とは
「マーケティング」という言葉は定着し、メディアでも一般的に使われるようになりました。しかし本書の序文の中では、その多くがある限られた分野をマーケティングと呼び、そのことだけを解説するケースが非常に多いと言われています。では、本来の「マーケティング」とはなんなのでしょうか。足立氏は、マーケティングは「商売そのもの」だと述べたうえで、次のように定義しています。
(1)人の心に何かしらの影響を及ぼして結果的に行動を変えること、(2)目的達成のためにすべきすべてのことを行うこと、(3)成功が継続するような仕組みを作ること(中略)この3つすべてがそろって初めてマーケティングだと私は思っています。(p.2)
本書ではこの定義を通して、
また本書は前述の幅広いマーケティング活動において、成果を上げるために必要なのは、「大局観」だと伝えています。自社で行うマーケティング全体を俯瞰することが求められているという意味では、現在注目されている「統合マーケティング」を例にとっても確かに同じことが言えるでしょう。オンライン・オフラインの施策を別個として実行するのではなく、双方を含む顧客とのコミュニケーションの流れを大局的に把握し複合的に利用することで成果が上がります。確かに、現在最前線で活躍するマーケターには必ずと言っていいほど求められるものでしょう。
原則だからこそあらゆる状況に対応する
一方、消費者の利用するチャネルが増え、マーケティングの業務がますます多様化、細分化していることにより、マーケティング実務者が一つひとつの仕事を大局的な視点で見ることが困難な状況が生まれているのも事実です。足立氏や土合氏のような全般的な知見を有する専門家にいつでも相談できるわけではありません。
本書を通して「原則」を知ることを提案している理由はそこにあります。本書で解説されている原則は、著者が多種多様なマーケティングに取り組んできた結果得られた、あらゆる商品・サービス、業界にも共通する「商売の原則」です。つまり本書は、実務者がその時々に求められるあらゆる業務に対する「原則」を知ることで、自ら解決へと導けるようにする一冊なのです。
本書の構成は、「マーケティングの基礎」「基本的製品戦略」「消費者コミュニケーション」「販売促進・その他のマーケティング活動」の4章立てになっています。
1章ではマーケティング活動すべての中心となる「コンセプト」の考え方からネーミングなどを含む新製品開発や話題化について。2章では価格設定やパッケージ、3章では代理店との付き合い方やメディアの効果と使い方、そして4章では戦略的提携やイベント活動などについて、幅広く解説されています。業界全域を網羅しながらも、各領域の実務者が読みたい部分から読んで理解できるよう組み立てられています。
また元スマートニュースの西口一希氏と語る「顧客起点マーケティング」や元Twitter Japanの味澤将宏氏に聞く「Twitterを使った成功するマーケティング」など、業界のキーパーソンたちとの対談も必見です。
この本を通し、自らの取り組む領域をより広い視野で、より鋭い視点で見つめ直してみてはいかがでしょうか。