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MarkeZine Day 2020 Spring(PR)

デジアナ融合のベストバランスとは?学習院大学、土屋鞄、ディノス・セシールの例に学ぶ

 2016年から一貫して、マーケティングにおける「デジタル×アナログ」の可能性を探り続けてきた日本郵便。 2020年3月10日に行われたMarkeZine Day 2020 Springでは、データマーケティングの最前線を走るトレジャーデータの堀内健后氏と、日本ダイレクトメール協会の専務理事を務め、アナログ施策を知り尽くした椎名昌彦氏を招きセッションを実施。日本郵便が独自に行ってきた実証実験や全日本DM大賞の結果を振り返りながら、消費者の心を動かすコミュニケーションについて語られた。

施策をスケールさせるための「デジタル×アナログ」

 「Beyond Digital ~『こころ、動かす』コミュニケーションを考える」と題された本セッション。モデレーターを務める博報堂プロダクツの大木氏はまず、マーケター約400名を対象に行ったアンケートの結果を提示した。(日経BPコンサルティング調べ「デジタル・アナログ領域のマーケティング施策実態調査(第6回)」)

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 「デジタル施策」「アナログ施策」「デジタルとアナログを組み合わせた施策」のそれぞれについて、売り上げ効果に対する満足度を質問したところ、組み合わせ施策の満足度が年々高まっていることがわかった。

 デジタルは一通りの施策を小さく試せる点が強みである一方、効果のある施策を取捨選択するとターゲットは狭く、手数は少なくなってしまう。このことから椎名氏は「施策をスケールさせるためにはデジタルとアナログを組み合わせ、両者のベストバランスを探るべき」と語った。

(左)トレジャーデータ マーケティングディレクター 堀内健后氏(中央)日本ダイレクトメール協会 専務理事 椎名昌彦氏(右)博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 エグゼクティブデータベースマーケティングディレクター 大木真吾氏
(左)トレジャーデータ マーケティングディレクター 堀内健后氏
(中央)日本ダイレクトメール協会 専務理事 椎名昌彦氏
(右)博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部
エグゼクティブデータベースマーケティングディレクター 大木真吾氏

若年層に効く、紙のDMによる行動喚起

 大木氏は次いで日本郵便、早稲田大学、富士フイルムが行った産学協同実験のデータを紹介した。同じ情報が記された紙のDMとEメールを用意し、送る順番を「紙→Eメール」「Eメール→紙」の2パターンに分けて、受け手の反応を測ったものである。

受け手の反応(嬉しさ)
受け手の反応(嬉しさ)
受け手の反応(温かみ)
受け手の反応(温かみ)

 特筆すべきは、若年層の反応だ。デジタルネイティブに分類される30代以下の受け手は、紙に対して嬉しさや温かみなどの好ましい感情を持っている。日本ダイレクトメール協会でも同様の調査を行ったところ、20〜30代における紙のDMの行動喚起率は全年齢平均の2~3倍という結果が示されたという。

 グループインタビューの結果によると、物心がついた頃からEメールやSNSのコミュニケーションが主流だった若年層にとって、紙のメディアは「立派なもの」「お金のかかったもの」という特別な印象を与えるようだ。逆に、Eメールについては「プロモーション関連のEメールは捨てアカウントで登録するので見ない」というシビアな声も聞かれた。

 「脳科学の実験では、デジタルコミュニケーションは主に左脳を刺激し、情報伝達に適しているとされる一方、紙の印刷物は感情表現を司る右脳も同時に刺激すると言われています。紙はエモーショナルな働きかけに強いと言えるのではないでしょうか」(椎名氏)

多忙なエグゼクティブ層との接触にも

 紙が与える印象は、受け手の年代だけでなく、ロイヤルティによっても変わる。前述の産学協同実験では、同じ情報を紙のDMで受け取ったグループとEメールで受け取ったグループに分け、ロイヤルティ別に「特別感」「企業側の好意」「企業側の気遣い」についても反応を測った。

ロイヤルティの高さによる印象の違い
ロイヤルティの高さによる印象の違い

 ロイヤルティの低い顧客は、反応に大きな違いは見られなかったが、ロイヤルティの高い顧客は、メールを受け取った場合のみ反応が極端に下がっている。日頃、顧客のロイヤルティも材料の1つとして分析・施策立案を行っている堀内氏は、自社の取り組みを次のように語った。

 「ロイヤルティが高く多忙なエグゼクティブ層にはダイジェスト版の冊子を送付して、コミュニケーションを図ってきました。紙は存在感があるので目に入れていただけるという期待をもっていましたが、それに加えてこのような実験結果が出たことは、私たちにとって大変意義深く感じられます」(堀内氏)

特性を生かしたシナリオ作りが重要

 Eメールは紙に比べて配信コストが低く効率も良い手段だが、受け手の年代やロイヤルティによっては、かえって紙の方が高いコストパフォーマンスを発揮する場合もある。不特定多数の見込み客に対してはEメールでアプローチし、受け手のロイヤルティが高まった段階でおもてなし感の出る紙を用いるなど、それぞれの特性を活かしたシナリオ作りが重要だと全員の意見が一致した。

 「リアルタイムのパーソナライズはデジタルの得意分野ですが、紙は記憶に残りやすい上、保存性が高いので、期間を空けて連絡しても反応が返ってきやすいという長所を持っています」(堀内氏)

 「最近は紙のDMのデータ活用が急速に進んでいます。オンラインでフラグが立った人にオンデマンド印刷で紙のDMを送付するなど、これまではデジタルでしかできなかったようなパーソナライズやリアルタイム性も実現できるようになってきました」(椎名氏)

学習院大学&土屋鞄の“優しいメッセージ”に学ぶ

 大木氏は「デジタルマーケターこそ紙の価値への理解を深める必要がある」と強調した上で、全日本DM大賞の受賞作品を例に挙げ、デジタル×アナログの組み合わせの最前線を紹介した。

 まずは、2017年のDM大賞で銀賞を受賞した学習院大学の事例。受験勉強が山場を迎えるクリスマスシーズン、同大学は受験生に向け激励のメッセージを添えてクリスマスカードを送付した。

学習院大学の事例
学習院大学の事例

 受け取った受験生たちはDMの写真とともに、「こんな手紙が届いた」とSNSに投稿。「元気づけられた」といったメッセージとともに拡散され、結果、翌年の同大学志願者数は前年比152%と過去10年で最多の志願者数に伸長した。

 この取り組みに対し、堀内氏は「学習院大学を受験しない人にとっても優しいメッセージで、誰も嫌な気持ちにならないという点が重要なポイント」とコメントした。

 「優しいメッセージ」を起点にした事例として、2019年度のDM大賞を受賞した土屋鞄製造所の取り組みも紹介された。同社は小学生向けのランドセルを購入した顧客に対し、学年末を迎えるタイミングで「最初の1年、よく頑張りましたね」というメッセージを添えたDMを発送。ランドセルの購買という1回の出来事で終わらせず、顧客、つまり保護者とのリレーションを構築することがこのDMの目的だ。学習院大学の事例と同様にSNSでも拡散され、ブランドイメージの向上にも貢献した。

土屋鞄製造所の事例
土屋鞄製造所の事例

 学習院大学と土屋鞄製造所の取り組みはいずれもBtoC向けに、アナログの施策をデジタルでの拡散につなげた好事例だが、BtoBでのコミュニケーションでも取り入れられるエッセンスはあるのだろうか。BtoB向けのビジネスを行っている堀内氏は、「デジタルの会社が紙を使っている」というギャップを狙って施策を打つことがあると述べ、次のようにアドバイスした。

 「トレジャーデータという会社を覚えてもらうだけでなく、この会社がちゃんとデジタルをやる会社だということをわかってもらうことが必要です。そのためには、アナログの先にあるデジタルコンテンツをリッチ化しておくことが大事だと思います」(堀内氏)

アナログ“merges with”デジタルを体現したディノス・セシール

 学習院大学、土屋鞄製造所がアナログからデジタルの好事例なら、次に紹介されたディノス・セシールの取り組みは、アナログとデジタルを融合した「アナログ“merges with”デジタル」の画期的な取り組みと言えよう。

 「この取り組みの優れた点は、DMそれ自体ではなく背後の戦略にあります。クリエイティブは普通のハガキや冊子なので、説明を聞くまでは評価が難しかったという審査員の声も聞こえてきました」(椎名氏)

 同社は「デジタルコミュニケーションのキャッチアップ」をコンセプトに、同社のECサイトでカート落ちした商品のデータを集め、最短24時間以内に紙のDMに印刷して発送した。カート落ち商品のフォローにはこれまでもEメールで取り組んでいたが、開封率の低さや訴求力の弱さを打開するべく紙のDMを使ったところ、紙のDMを送らなかったグループと比較してCVRが20%高く出た

ディノス・セシールの事例
ディノス・セシールの事例

 同社は他に、AIを活用した小冊子DMの制作にも取り組んでいる。顧客がECサイトで購入した商品に似たアイテムをInstagramから自動検知し、着こなしのアイデアをオンデマンド印刷で冊子にまとめて届けるというものだ。その結果、Web顧客のカタログ反応率が10%アップし、カタログをきっかけにCVも生まれた。小冊子の表紙にはそれぞれの顧客が過去に購入した商品の画像が採用されており、受け手が冊子を自分ごと化できる仕掛けになっている

 3社の事例について議論を深めた後、3名は次のように述べてセッションを締めくくった。

 「このセッションが、アナログとデジタルの有効な組み合わせ方や順番、『やる・やらない』の判断基準などを考える良い機会になれば嬉しいです。技術の向上により、アナログもデジタルのようにスモールスタートで試せるようになってきたのはありがたいですね」(堀内氏)

 「ターゲット層によって、各チャネルから受ける印象もメディアリテラシーも様々です。計算されたシナリオの中で最適なメディアを組み合わせ、使い方を進化させていくことが最優先の課題だと思います」(椎名氏)

 「これまでデジタルで課題を解決してきたデジタルマーケターの皆様に、『アナログもあるよね』という気付きが醸成されるセッションになっていれば幸いです」(大木氏)

デジタル×アナログの事例&研究成果をアーカイブサイトにて公開中! 閲覧はこちらから!

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この記事の著者

渡辺 佳奈(編集部)(ワタナベ カナ)

1991年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を2013年に卒業後、翔泳社に新卒として入社。約5年間、Webメディアの広告営業に従事したのち退職。故郷である神戸に戻り、コーヒーショップで働く傍らライターとして活動。2021年に翔泳社へ再入社し、MarkeZine編集部に所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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