「見えないもの」を軽視した、三者三様の失敗談
「見えないもの」の定義、重要性を熱く語った3名は、実は過去に「見えないもの」を軽視し、手痛い失敗を犯した経験があるという。
ロイヤルユーザーはデータだけでは定義できない
中川氏は、クライアントである某オーダーアパレル企業のロイヤルユーザーを定義した際の失敗談を共有した。誰が、いつ、何を買ったのかが詳細に記録されている顧客購買データを分析し、分析の結果、「初回購入時に〇〇円以上購入した」「サブ商品を併売している」などの条件に当てはまる顧客がロイヤルユーザーだと導き出した。
そこで先方に提案したところ、Noが入った。現場で顧客と接している営業パーソンから、「顧客はどんな悩みを解決したくて当社の製品を買ったのか、買った後はどのような感情が芽生えたのかなどの、ユーザーの気持ちやこだわりが抜け落ちている」と指摘されたのだ。
企業が大切にするべきロイヤルユーザーを定義するなら、顧客の「気持ち」を主軸に考えるべきだという言葉に、中川氏はその通りだと痛感したという。
ネット広告を見た、は事実だが真実ではなかった
松本氏は、2013年~2014年頃、前職でのとある単品通販ECの分析を担当した際の失敗談を語った。クライアントからは、「新聞やテレビに出稿したら、同じタイミングでオンラインの売り上げが増加する。相関関係を分析し、予算配分を最適化したい」と相談された。
どの広告媒体が購入につながっているのかを調査するために、コールセンターや商品購入ページでアンケートを採ったところ、80%の顧客が「ネット広告を見て知った」と回答。それならと、テレビや新聞の予算を削減し、ネット広告に予算を大量に投下したところ、売り上げは下がってしまった。
よくよく調べてみると、実は、「最初はテレビや新聞で知って、ネットで検索した」顧客が多かったのだ。「ネット広告を見た」という声は嘘ではない。ただ、真実ではなかった。
アンケートの回答内容は、そのまま受け取るのは危険だということだ。「ネット広告を見た」にはどのような背景があるのかを考えなければいけない。
自社ブランドに対して顧客が期待する人格を理解する
千葉氏は、自社の失敗事例を披露した。IBMの独自AI「IBM Watson」のマーケティングにおいて、見込み顧客からの問い合わせ数をいかに増やすかが目下の課題となっていた。当初はWatson APIの使い方など開発系の問い合わせが多く、本来の見込み顧客の獲得という目的とはズレが生じていた。
開発系関連の問い合わせは減らしつつ、見込み顧客を多く獲得できるよう、Webサイトのテキスト修正、ABテストによるモジュール配置の最適化などデジタルマーケティング王道とも言える改善施策を行い、PDCAを回した。結果、Webフォームへの問い合わせ数は前年比142%増加、案件創出数も122%増加したという。
施策は成功した……と捉えていたが、案件創出数は増えたものの、案件確度の低い問い合わせも同時に増加していた。
「失敗の要因として考えられるのは、問い合せ件数を上げることに焦点を当てすぎた点です。ABテストの数値結果も件数増加を見据えた検証のみで、問い合わせ内容の質向上に関する検証を行わなかった」と千葉氏は振り返る。