利用に対して対価を払うサブスクリプションが登場
第2回の記事は、一握りの優れた経営者によって創出されたブランドであってもマーケティングの視点からそのブランドが成り立つ構造を理解すれば、再現性あるものへと昇華することができるということを、スターバックスというブランドを例に説明しましたね。
僕らのような、限られた一握りではない側にいる人間にとっての朗報をもう一つ。デジタルが経営やマーケティングにもたらしたものについて、お話ししていきましょう。
マーケティングは「価値を創造する交換過程をつくる」活動です。したがって、価値交換の対象となる財やサービスそのもののデジタル化が可能なものは、すでにその価値交換過程のデジタルトランスフォーメーションが実現しています。
たとえば、音楽ではApple MusicやSpotify、映像ではNetflixやAmazonプライム・ビデオ、書籍ではKindle Unlimitedなど。この記事を読んでくださっている方も、すでに利用しているサービスがあるのではないでしょうか。
今紹介したサービスはすべて、加入することでコンテンツを利用する権利を得ることができる、サブスクリプションサービスです。コンテンツそのものの所有に対価を払っているのではなく、利用する権利に対価を払っている、と言えます。
「マーケティング=販売促進」ではない
たとえば、サブスクリプションサービスが登場する前の音楽の楽しみ方はどうだったでしょうか?
ひいきにしているアーティストのアルバムやシングルなどのCDが発売されると、それをCDショップで購入して楽曲を楽しむ、あるいはレンタルショップでCDを借りて、個人的利用の範囲内で録音(コピー)し楽しむ、というのが一般的だったように思います。
この状態を楽曲提供側から捉えると、ユーザーに届けるためには、いずれの場合も楽曲を販売する場(CDショップやレンタルショップ)にCDを物理的に配送しておくことが必要になります。楽曲提供者は他にもたくさん存在するので、結果としてCDショップやレンタルショップには多くのアーティストの楽曲が集まり、店頭に並ぶことになります。
その環境下で自社の楽曲をたくさんのユーザーに届けるためには、売り場を確保すること(売ってくれるお店を増やすこと)、店頭での露出を増やすこと(良い条件で店頭に並べること)、つまり流通対策と言われるプロセスが重要になります。いわゆるBTL(Bellow The Line)や、セールスプロモーションと呼ばれるプロセスです。
そしてこれは、別に音楽に限ったことではなく、ユーザーとの価値交換プロセスに第3者(小売店)を含む業界、いわゆる B2B2C に共通するものです。
マーケティングは「価値を創造する交換過程をつくる活動」ですが、一方でマーケティングは売ってなんぼ、つまり販売促進そのものだ、と解釈している方が多いことも認識しています。そういった認識は、このような背景があって生じた現象だと考えています。