Web広告は「人」から「面」へ回帰する
こうした動きを受け、今後Web広告はどのように変化するのか。伊藤氏は(1)面への回帰、(2)Cookielessソリューション、(3)One-IDによるアライアンスの3つを挙げる。
面への回帰とは、近年のアドテクが行ってきた「人」へのターゲティングではなく、広告配信先であるコンテンツの「面」の価値が再注目されることを意味する。読んでいる「人」ではなく、読まれている「コンテンツ(面)」に適した広告配信が増えることが予想されるという。
Cookielessソリューションとは、Googleが先行するPrivacy Sandboxのように、個人を特定せずにプライバシーを保護する代替ソリューションのこと。現在、W3CのWeb広告事業改善グループで標準化を目指しており、そうするとGoogle Chromeを始め、他のWebブラウザにもこの仕組みが搭載される可能性があるという。
最後のOne-IDによるアライアンスとは、共通のアイデンティティ(ID)管理と情報共有基盤による連携ソリューションのこと。最近、国内で注目されている情報銀行のような仕組みで、伊藤氏は「これが日本で主流になるのではないか」と見ている。仕組みは以下のようなものだ。

ユーザーは1つのIDで様々なサービスにログインし、その行動は共通データ基盤に集約される。またユーザーは自分のどのデータを、どの企業に提供するかを設定できる。企業は共通データ基盤を活用し、ユーザーデータのほか、企業が持つ様々なデータを連携してマーケティングに活用できる仕組みだ。「日本では、情報銀行の取り組みが1つのヒントになるのでは」と伊藤氏。
また国内でいえば、今回の個人情報保護法改正に際して注目されている取り組みがある。パーソナルデータの利用同意を管理するConsent Management Platform(CMP)と呼ばれるソリューションや、「何らかのオファーと引き換えに、当人の同意の下に提供された1stパーティデータ=ゼロパーティデータの活用だ。実際、CMPサービスやゼロパーティデータの構築支援サービスが始まっている。
パーソナルデータの扱いに変化が生じている
Cookieを始め、パーソナルデータを誰がどのように管理し、利用するかという点は、これまで十分な議論がなされてこなかった。一方でテクノロジーが進化し、様々なデータを組み合わせることで個人を推定しやすくなり、その利点を生かしたアドテクやデジタルマーケティングが発展した。
伊藤氏は、「消費者データの獲得競争が激化し、さながら1800年代のゴールドラッシュのように、みんながデータに群がる“データラッシュ”の様相を示しています」と語る。
だが、そうして獲得した消費者のデータが、どれだけその消費者の実像を表しているかは疑問が残る。伊藤氏は調査会社・インテージのエバンジェリストとしても活動しているが、インテージ時代にモニターの購買パネル調査に携わった経験から、「たとえばポイントカードのデータを使って消費パターンを分析したとしても、そのポイントカードの範囲内での消費行動しかわからないため、その人の行動を理解することにはならないのです」と説明する。
こうしたなか、世界的に湧きあがったのが、公正なデジタル社会の実現に向け、パーソナルデータが帰属する「個人」と、そのデータを活用してビジネスを進める「企業・組織」との対等な関係を模索する動きだ。個人が自分のパーソナルデータに関し、利用できる範囲と提供先を決め、企業はこの同意の下にデータを活用する。
こうした社会を目指し、2018年10月に設立された国際非営利組織がMyData Globalだ。