デジタル時代に起きている「3つの環境変化」
フリマアプリやショールーミング、サブスクリプションモデルが普及し、生活者を取り巻く環境に大きな変化が起きた今、当然企業のアプローチ方法も変わらなければならない。
ただ、変化が求められて久しいものの、どのように変わるべきか、その最適解を見つけた企業はまだ少ないのではないだろうか。
中川氏が所長を務める博報堂行動デザイン研究所では、ともすると作品になりがちな広告を「それで人は動くのか?」と問い直し、購買行動にコミットしうるコミュニケーションとしてどのように設計すればよいのかを探るため、生活者の行動を日々研究しているという。研究の結果、デジタル時代に対応する行動デザインモデル「PIXループ」を導き出した。
この新たなモデルを解説する前に、まず、デジタル時代にどのような環境変化が起きたのかを見ていこう。中川氏は、デジタル時代に起きた環境の変化として、(1)情報環境、(2)生活環境、(3)買物環境の3つを挙げる。それぞれの変化は下記の通り。
中川氏は、情報量の爆発的な増加や、商品・サービスのコモディティ化、オンライン、オフラインを自由に行き来する購買行動の変化など、デジタル時代に起こった変化を網羅的に解説した上で、現代の生活者特有の行動に言及した。
「たとえば電子レンジを買い替えたいなと思った時、いろんなWebサイトを回ってチェックしますよね。でも、情報が多すぎてなかなか選びきれない。もっと品質が良いもの、もっと安いものがあるのではないかと色々調べた結果、買うこと自体が面倒になってしまうケースがある。弊社ではこれを“欲求流去”と呼んでいます」(中川氏)
このような状況下では、生活者に購買まで複数のステップを踏ませる「AIDMA」モデルは通用しなくなっていると指摘する。
スマホ所有者の7割以上が情報を「プール」している
では、人々は今、どのような消費行動を取っているのだろうか。大まかに言うと、以下のような流れだ。
購買前:好きな情報だけを引き寄せ、プール(貯蓄)しておく
購買:プールした情報をきっかけに、検討を挟まずに購入
購買後:購入そのものより、コト消費を重視
まずは購買前の行動に注目しよう。現在、多くの人々が、能動的に情報を検索することをせずとも、自分の好きな情報が勝手に集まってくる環境を築いている。たとえばInstagramの場合、自分がフォローしたアカウントやいいねした情報に基づいてお薦めの画像が表示される機能がある。好みの情報が自然に集まるようカスタマイズされ、好きな情報が自分のスマホにプールされていくわけだ。
「動画サイトのチャンネル登録」や「気になった看板や屋外広告のスマホ撮影」、「SNSでのいいね」など、同研究所では好きな情報をプールするための行動を定義。スマートフォンを所有している15~69歳の男女約1,000名に、情報をプールするための行動を取ったことがあるのかを調査した。
その結果、プールした経験を持つ人の比率が全体の7割を超えていることがわかった。年齢別に見ると特に若年層に浸透しているが、60代でも60%と決して低くはない数値が出ている。