有人窓口のチャネルは安心感につながる
安成:前段で菅野さんが、エンゲージメント醸成に寄与するチャネルとして、人による接客と真摯な姿勢を示せるメールを挙げられていました(※前編)。そうすると、以前と比べて重視しているチャネルも、その2つになりますか?
菅野:そうですね。まず、デジタルチャネルが増えている今、各チャネルに“人”を掛け算することが重要ですし、実践もしています。WebやDMでも、有人の窓口を案内しておくだけで、安心してサービスを使えるのでは、と。また、ライトなチャネルが増えている分、メールの“公式”感が増していますね。よくいわれるメール離れというものを当社では感じていないです。パーミッションや開封率に変化はありません。
北村:メールの特徴のひとつに、コンテンツの表現力があると思います。サイトへの誘導を図る際、そのサイトと地続きの表現で提供できると、違和感が少ないというか。藤原さんは、重視するチャネルに変化はありますか?
エンバーポイント CMO 北村伊弘氏
1999年に現エンバーポイントの母体となるベンダー企業に入社して以降、一貫してテクノロジーを追求したマーケティング支援に携わる。クラウド型メール配信プラットフォーム「MailPublisher」シリーズの各プロダクトを企画し、現在は同プロダクトのマーケティング責任者として従事している。
藤原:当社はやはりリアル店舗が最も大きいチャネルなので、それが重要なのは変わりません。ただ、店舗はご自宅から少なからず距離がありますが、デジタルは“0cm”。そんな存在が生まれたことで、わざわざ来てもらう店舗は一層MDや接客といったコンテンツを磨く必要性が出てきています。お客様の時間を無駄に奪わないという点は、一層注力しています。
これはお客様にギフトを届けるようなイメージでずっと続けていますね。我々は各オンラインチャネルやECをデジタル起点のメディアだと捉えていて、その先にリアル店舗での体験があり、最終的には販売員が直接電話できるくらいの関係性を構築するのがひとつのゴールです。オンラインからリアル店舗へつなげるストーリーづくりが、ますます大事になっています。
ベストテクノロジーに自社を寄せるほうが得策
安成:ここまで、両社の戦略と施策をうかがってきましたが、その実現はテクノロジー基盤の整備とセットだと思います。今、米国ではひとつですべてをまかなうスイート製品ではなく、10個や20個ものマーケティングツールを組み合わせて自社に合う基盤を構築する「ベスト・オブ・リード」という方法が主流になっているそうですが、お二人はどのようにシステム基盤を構築されていますか?
菅野:個人情報や店舗とWebの連携など事業のコアに関わる部分は内製、配信などのノンコアの領域は外部ツールを使っています。前述のMAも今は外部ツールですね。カスタマイズしていた時期もありましたし、今も既製品ならではの制約やデメリットを常に感じていますが(笑)、MAはあくまで配信の発射台としてノンコアと位置付けているので、今はこの形を取っています。そのときどきで、揺り戻しもあります。
藤原:当社もコアとノンコアである程度振り分けていますが、菅野さんのところと大きく違うのは、社内にエンジニアがいない点です。なので基盤はすべてパートナー企業と構築して、そこに外部ツールを載せています。
本当はオールインワンで運用したいのですが、そうするとすぐに足りない部分が出てくるので、顧客基盤だけはしっかりしたものを構築し、施策のツールを比較的柔軟に組んでいっています。早いと1年くらいで替えたりしますね。
安成:本当はオールインワンがいい、という意図は?
藤原:ラクですよね。我々はデジタル系の会社ではないので、テクノロジーを自分たちで開発して合わせるより、世の中に出ているベストプラクティス、ベストテクノロジーに自分たちを合わせたほうが、結果的に成果が出るんじゃないかといつも思っているんです。開発にかける資産を、顧客に喜ばれる施策やアプローチの企画編集に配分したほうがいい。でも、実際には足りないところが出てくるというジレンマがありますね。