人間はカテゴライズが得意、だからこそ、差別化ではなく独自化を
「同じようなもの」とみなされたものが「カテゴリー」、「同じようなもの」とみなすことが「カテゴライズ」です。従って差別化するには「カテゴリー」において他との違いを強調するものから、そもそも「カテゴライズ」されないように違いそのものを強調するなど、複数の手法が考えられます。

ただし、いずれの手法にも共通していることは、容易に「同じようなもの」としてしまう人間の習性を、前提として受け入れている、ということです。
一方で ”the apple”、つまり一つひとつのリンゴが異なることを感知するセンサーも、人は持ち合わせています。僕はここに機会を感じています。
人はそれぞれの違いをしっかりと認識する能力を持つ、と同時に、それぞれ異なるものを「同じようなもの」にしてしまう能力も併せ持っている。そう捉えると、何かしらの手法で差別化するのではなく、異なるものとして存在するものを、その状態のまま確立させ独自化を狙うほうが良いと考えます。
” the 〇〇 = a(an) 〇〇 ”。つまり、カテゴリー・イノベーションの状態を目指すことが、ブランド開発です。
「何を言っているんだ」と思われたかもしれません。できるだけわかりやすく伝えるために、僕も利用しているAmazonを例に整理してみましょう。
Amazonが創業した頃、僕の認識は書店のECというものでした。そしてそれがやがて巨大なECという認識となり、今はどうカテゴライズすれば良いのか、もはや僕にはわからない状態です。すなわち ”the Amazon” = “an Amazon”です。
これまでの連載を読んだ方から、Amazonにスターバックス、引用している事例が、海外の大企業ばかりじゃないか、という声が聞こえてきそうです。でももう少しお付き合いください。たとえ大企業でないとしても、その道はあります。
独自化を目指す上で欠かせないパーパス
このところ経営者やマーケターから注目されているパーパスという言葉。企業の「存在意義」や「大義」という意味ですね。
一人ひとりの人間がそれぞれ異なるように、どの企業にも違いがあります。
パーパスとは存在意義のことですから、それを掲げるということは、それぞれが異なる存在であるという前提のもと、独自の存在であることを表明することになります。
つまり、Amazonのような巨大な企業でなくても、パーパスを掲げることで独自化への道は開ける、ということです。
だからこそパーパスが今、脚光を浴びている、私はそう捉えています。
ブランド資産がもたらすもの
独自化を図るために活用できる資産がブランドです。
ここで一つ、僕が所属するオプトが独自に行ったブランド調査の分析例をお見せします。

この図は、47のブランドを評価したもので、各ブランドが生活者にどのような印象を持たれているのかを、分類したものです。
飲料カテゴリーに属するブランドは概ね同じような印象を持たれている一方で、自動車やカフェ、SPAや流通カテゴリーに属するブランドは、印象に差異が生まれている(異なる象限にプロットされる)ことが多いことに気づきます。
生活者からの印象をしっかりと把握し、ブランドが持つ大切な資産として扱える状態にしておくことは、企業の独自性を高めるにあたって有用で、とても重要です。そして上の図は、多くの企業が” the 〇〇 = a(an) 〇〇 ” を目指すことができるという、その可能性を表しているものだと捉えています。
ここまでの僕の考えをまとめます。
・差別化ではなく、独自化が大切。つまり “an apple” ではなく ”the apple” 。
・”the apple” を成り立たせている要素の集合体がブランド資産。
・独自性を高め “the apple = an apple” となる状態を目指すこと、それがブランド開発。
・その視点において”パーパス”を掲げることは重要であり、有意。
・そして “the apple = an apple” の成り立つ状態こそが、カテゴリー・イノベーションであり、ブランドの確立と言える。
・すべての企業活動はブランド開発であり、その方針を定めて独自性を高めることで、オリジナルな存在になれる。
・その結果、顧客の創造と維持は達成される。
次回はいよいよ最終回。ブランド開発をプロセスとしてまとめ、お伝えします。それでは。