ネット登場前:マーケティングは、2つの意味でシンプルだった
もう一つ、BtoBマーケティングに欠かせないのが購買プロセスを理解することです。以下の図では、それぞれのプロセスを意思決定の連なりとして捉えています。重要なのは、インターネットの登場により、このプロセスにおける顧客の行動が大きく変化したということです。具体的に説明しましょう。

1990年代半ばから2000年初頭ぐらいまでは、インターネットは普及期の段階で、まだ情報収集の中心手段ではありませんでした。この時代、BtoBでモノを買う人が情報を得るということは、「営業の人に会う」ということを意味していたのです。「なるべく早く人に会う」ということが要であり、それを起点として、製品やサービスの購入が成立していました。
かつて購買者が情報を得る手段は「営業に会うこと」に限られていたので、営業パーソンにとっては「とにかくご挨拶だけでも」とか「お会いしてお話だけでも」と言ってアポを取ることが、商談の第一歩として有効だったのです。他にも、展示会を通じて顧客になるべく早く、1人でも多く接触する、ときにはFAXや紙のDMを送るといったアプローチが主流でした。
さらにこの時代のもう1つの特徴は、企業の課題が比較的シンプルで明確だったということです。事業というものは、企業の課題解決を目的にしています。さまざまな企業活動によって、時間が経てば経つほど世の中の課題は解決されていきます。そして課題解決が進むほど、いっそう高度な課題が生まれてきます。
例を挙げると、企業が求めるIT化は、初期の頃は顧客の一覧をデータベース化する、売上を集計するといったわかりやすいものが大半でした。それが最近では、AIやビッグデータを駆使して予測を立てる、経営判断を支援するなど、より高度な課題解決が目指されるようになっています。
製品やサービスを通じて届ける価値自体がシンプルで、その間をつなぐ届けるための道のりについても、ほぼ営業の人が情報を届けるというシンプルさ。これがインターネット登場前のBtoBマーケティングの基本でした。
2000年前後:ネットの登場で何が一番変わったのか?
では、インターネットの登場で何が一番変わったのか? それは「顧客が能動的に情報収集をするようになったこと」ではないでしょうか。
営業パーソンに来てもらって話を聞いたり、たまに展示会に出かけていって担当者の説明を聞くだけではなく、自分たちの会社に必要な製品やサービスの情報を、日常的に収集するということが当たり前になりました。2000年前後から、社内では1人1台のPC環境になり、担当者がつねにPCの前に座り、情報収集ができるようになったことで、Webマーケティングやメールマーケティングといった方法が注目されるようになりました。若い世代の方には想像しにくいかもしれませんが、インターネットで発信するということ自体が先進的とみなされていた時代です。
こうしたデジタルの重要性は、どんどん増しています。ここ数年では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が語られ、さらに今回の新型コロナウイルスの問題が生じ、テレワークが半ば強制的に必要になったことで、この流れが加速していくことは間違いないでしょう。しかし、ここで考えなければいけないことがあります。