ヒットコンテンツを生み出すための4象限とは?
中川:「情」と「報」のバランスを取ること以外に、企画時のポイントはありますか。
水野:ありますよ。この「情」と「報」をもうちょっと広げて考えています。横軸に「情」と「報」を言い換えて、「情報性のない(いい意味でくだらない)/タメになる」と置きます。そして、縦軸に「大衆的/マニアック」と置いて、4象限のマトリクスを描き、番組をどこにポジショニングするかを意識しています。

水野:まず、番組で扱うすべてのネタの平均をどのあたりの座標にするかをイメージします。たとえば初期の「初耳学」の座標は、“タメになる”の比率が高めでちょっと“マニアック”というところに置いていました。
初期の「初耳学」は1時間で6ネタを扱っていたので、その中には、かなりマニアックなネタや、グルメなどの大衆的なネタ、理屈なく笑えるくだらないネタも入れて、平均として目指した座標に収めるというイメージです。同じ番組を放送していても、ベストな座標は日々変わります。
中川:「プレバト!!」の俳句も地上波ではマニアックですよね。
水野:地上波のゴールデン帯では無謀なほどマニアックだと思います。だって俳句をやってる人に会ったことなかったですもん(笑)。あと、「プレバト!!」の中でもマニアックな企画で高視聴率だったのが、ぬか漬け査定だったんですけど、1ヵ月、丹念にぬか床を世話する要素と、おばあちゃんの先生がきゅうりのぬか漬けを食べてる音が好評でした。
デジタルコンテンツの登場で生まれたぬか漬けコーナー
中川:現在は動画配信サービスなどが登場し、デジタル上でも多くの動画コンテンツが存在するようになりました。それによって、これまでの4象限の考え方やテレビ番組のあり方、作り方に影響はありましたか。
水野:最近、動画配信サービスが台頭してきて感じるのは、先ほどお伝えした4象限の中で地上波がマニアックに振り切ったとしても、動画市場ではかなり大衆的だということ。ずっと他局と熾烈な競争をしてきて、差別化するためにマニアックなネタも扱ってきたのに、「大衆的/マニアックの縦軸」の振れ幅が一気に広がったので、「あれ? 自分が狭いところを狙った企画でも、かなり大衆寄りなんだな」と気付かされた感じです。まあ、マスメディアだから当たり前なんですけどね。

水野:YouTubeでちょっと前に流行った、咀嚼音などを扱うASMRの動画などは地上波テレビではまずやらないジャンルだと思います。でも、ぬか漬けの咀嚼音は自分もやったか(笑)。特にゴールデン帯の地上波コンテンツは、何千万人を相手にしているので、大衆的の領域を出ることは難しい。
ただ、先ほど言った通り、番組全体の座標は平均値でいいんです。新しい動画コンテンツが、マトリクスの縦軸の振れ幅を大きくしてくれたおかげで、地上波もマニアックなネタを扱えるようになりました。地上波も企画の幅が広がったと思うので、これからより新企画が生まれやすくなるはずです。