注力すべき業界を的確に見出したSmartHR
労務分野の紙の利用を排除し、手続きを簡素化するクラウド人事労務ソフト「SmartHR」も、急成長の理由の1つとしてラクスルと同様テレビCMの活用が挙げられる。
2015年から提供開始したSmartHRは、当初はITベンチャーを中心に導入が進んでいた。岡本氏が入社した2018年からは、飲食・小売業界を中心としたマーケティング戦略にシフト。方針を大きく変えた理由は「SmartHRの提供価値を最大化できる」「大企業が多い業界」の2つだ。
「飲食・小売業界は、SmartHRを最大限活用いただける業界の1つだと確信していました。両業界はアルバイトで働く方も多く、従業員の入れ替わりが多い店舗が多く、複数の拠点から書類郵送の手間もかかるためです。そして、知名度が高い大企業も多い業界であることから、導入が進めばSmartHR自体の認知と信頼の向上が期待できると考えたのです」(岡本氏)
そして、飲食・小売業界へのアプローチ手段として活用したのがテレビCMだ。料理と親和性の高いタレントを起用したテレビCMを出稿したところ、導入企業の規模感が変化。出稿前は従業員10,000名規模までの企業が多かったが、出稿後は数万名規模の大企業による導入が増加。2年連続で労務管理クラウドシェアNo.1を獲得するに至った(ミック経済研究所調べ)。

コロナ禍で加速したSmartHRのマーケティング
2018年以降、SmartHRは飲食・小売業界を中心としたマーケティング施策を継続していたが、2020年3月頃から方針転換せざるを得なくなった。
「元々、4月は業務効率化のメッセージを打ち出すプロモーションを実施する予定でした。ただ、やはり『この状況下で出すメッセージではない』とメンバーからの声が上がってきて、急遽ストーリーラインを変更することにしました」(岡本氏)
現在の状況に対し「SmartHRとしてどのような課題解決ができるのか?」という視点で議論を重ね、生まれたキャッチコピーが「テレワークが始まった。ハンコを押すために(書類提出のために)出社した」だ。このキャッチコピーを採用した広告クリエイティブは折り込みチラシと交通広告で展開され、SNSなどでも話題を集めた。

「多くの企業がテレワークに関心を持ったタイミングだったので、テレワーク周りで課題を感じる層をターゲットに選定し、媒体を検討しました。その結果、選んだのが交通広告でした。このような状況下で通勤しなければいけないのは、まさしく紙やハンコによる手続きのためという方が多いはずだからです」(岡本氏)
この広告での反響を活かすかのように、テレビCMも出稿。テレワーク実現のためにSmartHRを導入した企業にリモートで出演してもらい、導入後の変化を語ってもらうクリエイティブを展開した。

このテレビCMも話題となり、様々なメディアでも取り上げられた。一連のキャンペーン実施期間中の指名検索数やリード獲得件数、商談数は倍増したという。
