愛着あるブランドとして、想起してもらえるか?
――両社はこの5月に協業を発表されました。はじめに、その背景にあった課題意識からうかがえればと思います。白井さん、チーターデジタルではゼロパーティデータの取得によるロイヤルティマーケティングを推進されていますが、まず昨今の消費者がどのような顧客体験を求めているか、御社で実施した調査について教えてください。
白井:今年2~3月、チーターデジタルは世界6ヵ国の消費者4,921人に対して調査を実施しました。そのうち日本の消費者809人について、4つほど興味深い観点を紹介したいと思います。
まず購買行動について、52%の方が「自分のライフスタイルに合った商品やサービスがほしい」と答えました。ブランドには、ユーザーのライフスタイルを把握しそれに沿ったオファーをすることが求められています。
とはいえ、そのためには個々人に関する情報を得ることが必要になります。日本の消費者はグローバルと比較してプライバシーにセンシティブで、今回の調査でもクッキー削除やアドブロッカー利用などの傾向がうかがえましたが、一方で43%の人が「商品やサービスを引き換えにパーソナルなデータ(※1)を提供する」と答えていました。
――パーソナルデータの提供そのものを拒否しているわけではなく、ブランドがそれに見合う価値を提供できているかが分かれ目なのですね。
白井:はい、そのような傾向が読み取れます。3つ目の観点は、パーソナライゼーションについてです。「パーソナライゼーション広告は便利で、それを好む」とする人は15%に留まり、広告に追いかけられることへの嫌悪感は高いことがわかりました。
最後にロイヤルティに関して、72%の人が「2~5つのブランドにロイヤルティを持っている」と答えていました。この“愛着あるブランド”に入ることができたブランドは、商品やサービスに対するフィードバックや、購入者のパーソナルデータを提供してもらいやすくなり、一層強いブランドを構築していく好循環を生むことができるでしょう。
特典やポイントは響かなくなっている。ブランドに求められる変化
――たしかに、愛着があり信頼しているブランドなら情報提供もやぶさかではなく、むしろ積極的にアプローチを受けたい、と思う心理は納得できます。
白井:そうですね。この調査ではブランドに愛着をもつ理由も聞いたのですが、47%の人が「優れた製品やサービスを提供してくれるから」と答えた一方、「ポイント付与や特典があるから」という人は8%と低い状況でした。
いわゆる金銭的メリットを付与してロイヤルティを育てるのは、これまで長く日本で実践されてきた手法です。しかしそれは現在の消費者から見るとすでに魅力的ではなくなっている、と読み解けますよね。だからこそ私たちチーターデジタルでは、金銭的メリットで顧客をつなぎ留めようとするのではなく、顧客を深く理解することで愛着や信頼性を育てていく方法を提唱し、そのためのプラットフォームを提供しているのです。
――なるほど。一方、10年以上前からWeb接客ツールを提供されてきたSprocketさんでは、企業と顧客との関係構築をどのように捉えているのでしょうか。
深田:当社でも長い間、金銭的メリットによる関係構築に違和感を持っていました。白井さんが話された課題意識は、私もずっと感じてきたことですし、今回の協業の根幹にも、この思想が完全に共通していることがあります。
考えてみれば、店頭でお客様に面と向かって「今、決めてもらえればポイント10倍!」などオファーすることはないですよね。それなのになぜか、Web上ではこうした施策ばかり打ってしまいます。Webであっても、企業がユーザーと「信頼」でつながることはできるはず。当社のプラットフォーム「Sprocket」を“おもてなしデザインプラットフォーム”と謳っているのも、根底にそのような考えがあるからなのです。
――言われてみれば、なぜかWebでは割引やポイントなどの経済的メリットばかり強調されている感じがします。
深田:冷静に考えればおかしな話なのですよね。とりわけ接客の場がスマホのようなパーソナルなチャネルになると、余計に“1対1”でやりとりしている感覚が強くなります。この時代だからこそ、顧客を深く理解した上でその人に合った接客や提案をし、信頼を築くことに目を向ける必要が高まっていると思います。