知見の蓄積を目的に、IT専門部署を立ち上げ
MZ:導入されてから6年が経っていますが、どのように取り入れてきたか、御社の組織体制やマーケティング戦略の全体像と合わせて教えていただけますか?
吉田:組織で言うと、当社は全員が研究者の集団なので、あまりきちっと役割分担を決めていないんです。営業部も人事部もなく、皆が全業務をやるという形でこれまで進んできました。この利点は、誰もが自分の研究の強みを活かして活躍できることです。他のスタッフが知っていることをどんどん取り入れていけば、それぞれが新しい武器として展開できます。
一方で、こういう体制だからこそ、顧客情報を各人がばらばらに保有している状況がありました。そのためマーケティング戦略としては、その一元管理が最初の目標でした。2014年当時は別のツールを使っていましたが、Pardotの導入を皮切りにSalesforce製品を活用していくことを視野に入れ、最初からPardotにデータを蓄積していこうと社内で促していきました。
MZ:具体的には、どのようにPardotを活用されていたのですか?
吉田:たとえば当社で多い募集系のメール配信は、なるべく必要な人に絞ってリスト化と送信をしないと、内容のミスマッチからオプトアウトにつながって、送付リストが先細りする事態にもなってしまいます。そうしたリスト作成の効率化と精度向上を、Pardotで行っていきました。Pardot自体はとても簡単に使えるツールなので、昨年までの5年間はスタッフそれぞれが利用し、活用度も習熟していきました。
ただ、各々が習熟するほど、今度は知見が1ヵ所に集まらないという課題が浮き彫りになっていきました。そのため、2019年に専任部署としてIT部門を立ち上げ、そこで組織的にPardot運用の知見を蓄積していく体制を整えました。
「情報入力が自分のメリットになる」文化の醸成
MZ:では、専任部署を立ち上げるまでの成果と、その後の変化をうかがえますか?
吉田:2014年から2019年の間にも、開封率やコンバージョンといった成果はもちろん高まっていきました。いちばん手応えが大きかったのは、皆が「Salesforceに顧客情報を入力すると得だ」と思うような文化が醸成されていったことです。以前はどうしても、自分が苦労して手に入れた顧客情報をSalesforceに入力して他の人が参照できるようにすることに対するメリットを訴求できておらず、情報の入力を徹底できていませんでした。
これを打開するには、本当に、地道に成果を可視化することだと思います。One for Allの意識を持てるような呼びかけと、システムによる成果の共有で、徐々に情報入力の習慣を作りました。最初の1年で、個人のアクションがこれだけ組織全体のデータ蓄積と事業への貢献につながるのだと、実感を持ってもらうことを徹底しました。
MZ:それは、ツール活用が社内に浸透するのに大事な点ですね。
吉田:その過程で、これは専任部署があったほうがもっとドライブするのではという見通しが立ち、前述のIT部門立ち上げに至りました。
現在では名刺情報以外に、過去のメールのやり取り履歴、打ち合わせ議事録、会員サイト上でのアクションデータなども集約しているので、メール配信のリストづくりの精度も大きく向上しました。また、「こういう人に対してこういった内容を伝えたいが、どうしたら良いか」と、IT部門に相談が入るようにもなりました。一緒に議論することで、本当にアプローチすべき人の輪郭がくっきりしてきます。
当社は私が兼任しながら試行錯誤を重ねたので少々時間がかかりましたが、専任部門がいる組織なら1年足らずで成果が上がると思います。PDCAを回しやすいのがPardotの利点ですね。