↓堀田氏を迎えたWebセミナー「マーケティング戦略の大転換」第5回のダイジェストはこちら↓
多数のブランドを展開するパルのオムニチャネル戦略
次世代マーケターのためのコミュニティ「0 to Loyal~ゼロ トゥ ロイヤル」のWebセミナー、第5回は、アパレルコマースのプロフェッショナルである堀田覚氏をお呼びした。堀田氏は、新卒で三陽商会に入社し、婦人服の営業にはじまりVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)やMD、ブランド責任者を経験。ハースト婦人画報社に転職し、メディアコマースサイト「ELLE SHOP」の立ち上げとマーケティング責任者を務め、その後現在のパルに入社した経歴を持つ。
パルは、50以上のブランドを展開する統合アパレル企業だ。20代中心のカジュアル系ブランドから40代以降向けの大人のブランド、生活雑貨など、多様なブランドを取り扱っている。その中で堀田氏はWeb事業推進室長として、プロモーション、Web、CRM、EC全般を統括している。
堀田氏は冒頭、「パル流のオムニチャネル」の4つのポイントを明かした。
(1)スタッフSNSによる新規獲得
(2)実店舗でのアプリ会員登録からデータを取得
(3)ECからデータを取得
(4)アプリ、メール、DMなどでオムニチャネルでの購入促進
運用に力を入れているInstagramを中心としたSNSは、1,000人以上のショップスタッフが投稿しており、フォロワー数を合計すると400万人を超えたそうだ。また、数年前にアプリを起点に実店舗とECサイト「PAL CLOSET」の会員データを統合したことで、オフラインとオンラインの2軸で行動データ、購入データを取得し、最適なタイミングで情報を届けられるようにしている。
300年前から存在した!?ロイヤルティプログラム進化の歴史
セミナーは「顧客ロイヤルティの進化」をテーマにパルの取り組みが紹介されるとともに、以下3つのトピックについて議論が交わされた。
【1】現代のロイヤルティプログラムとは?
【2】ロイヤルティプログラムの構成要素
【3】ゼロパーティデータ×MA×ロイヤルティの可能性
【1】について、加藤氏はまずロイヤルティプログラムの歴史に触れた。その起源は3世紀ほど前、商品の購入時に、後で限定商品と交換できるトークン(代用貨幣)が配布されたことと言われている。その後は時代に合わせて、印刷スタンプ、ポイントカード、そしてアプリへと変化していった。
では、現代のロイヤルティプログラムはどんな特徴を有しているのか。加藤氏はユニークな顧客体験が提供されるようになったことに注目している。たとえば「THE NORTH FACE」や、アウトドアブランド「REI」、シューズブランド「TOMS」では、限定アクティビティへの参加や社会貢献活動といった非金銭的なインセンティブを、ロイヤルティプログラムに組み込んでいる。
こうした海外事例を受けて堀田氏は、「お客様の購買理由や動機を見ても、SDGsやサスティナブルなどに対する関心が、特に若い人たちを中心に広がってきていると感じます。特に社会貢献に結びついたリワードに注目しています」とコメントした。
THE NORTH FACEをはじめとする先進企業のロイヤルティプログラムを動画にて紹介! 視聴はこちらから
ロイヤルティプログラムを構成する5つの要素
話題は2つ目のトピックに移され、加藤氏がロイヤルティプログラムを構成する5つの要素を説明した。要素を分けて考えることで、現代型のプログラムの特徴がよりはっきりと見えてくる。
(1)目的=誘引したい顧客行動
(2)顧客ロイヤルティ階層構造
(3)リワード対象
(4)顧客ベネフィット
(5)媒体・管理方法
かつて盛んに行われていた「ポイントプログラム」は、購入とリピートを目的に、購買の金額や頻度に応じて、ポイントやクーポンを付与するものだった。それに対し現代のロイヤルティプログラムは、ブランドへの支持を生み出し、ファンになってもらう経済圏を形成し、顧客の経済的な活動、行動、そして心理まで動かすという目的に変わっている。それにともない、プログラムの階層構造も、購入金額や頻度だけでなく、ブランドへの愛着や信頼をベースにする企業が増えている。
進化のポイントは「リワード対象」と「ベネフィット」
さらに現代型のロイヤルティプログラムは、(3)リワード対象と(4)顧客のベネフィットに特徴がみられる。加藤氏は「この2つを体系的に捉えていくことが、ロイヤルティ経済圏を構成する上でキーとなる」と強調した。
リワードについては従来、直近の購入、購入頻度、購入金額などが対象とされていたが、顧客エンゲージメントの機会に通じるものはすべて対象と見なすことができる。たとえば、サイトやアプリへのログイン、店舗へのチェックイン、SNS投稿といったブランドとの接触に対し、リワードを設けることが可能だ。堀田氏はパルの取り組みとして、コロナ禍の最中に導入したレビュー機能に言及した。
「コロナ禍によって、日頃実店舗に来てくださっていたお客様がECを利用するようになり、『レビューを見たい』という声を多くいただくようになりました。そこで1レビュー書いていただくごとにポイントが付与される仕組みを設けたところ、驚くほど熱心に書いてくれる方がたくさんいらっしゃったんです。お客様の熱量を他のお客様に伝える良い機会になりますし、企業としても、レビューで寄せられた声を改善に役立てていかなければと感じています」(堀田氏)
また顧客ベネフィットは、ハードとソフトの両面で設計できる。ハードはポイントやクーポンなどの経済的な側面のベネフィットや商品、ソフトは限定されたコンテンツへのアクセスやブランドが与える顧客への称号などがある。
加藤氏による説明に対し、堀田氏も「ハードとソフト、両方のベネフィットが必要」と賛同した上で、「企業が思っている以上に、企業との関係をエモーショナルに捉えているお客様は多い。企業からの気持ちが伝わる顧客ベネフィットを選んでいくことが大事ではないでしょうか」と考えを述べた。
現代型ロイヤルティプログラム構築のアイデアとは? 動画本編では、堀田氏と加藤氏の議論をより詳しくご覧いただけます。
ゼロパーティデータ×MA×ロイヤルティで実現する世界観
最後のトピック、「ゼロパーティデータ×MA×ロイヤルティの可能性」では、現代型なロイヤルティプログラムをテクノロジーと連動させると、どのような世界が生まれるのかについて考察された。
MAを用いると、顧客の行動をトリガーにすることで、顧客のタイミングに合わせてメッセージ送付などの施策を実行できる。しかし個々の行動の背景にある心理を知る手段は限られており、企業側はこれまで行動から類推しながら、顧客ごとに適したと思われるコミュニケーションをとらざるを得なかった。そこでゼロパーティデータを取得し顧客の心理を把握することで、コミュニケーションの内容も顧客ごとに合わせられるため、MAの機能をさらに有効活用できるようになる。
「かつては店舗でショップスタッフが聞き出さなければわからなかった深い情報を、今はデジタルの接点で把握できるようになりました。コロナ禍でECの利用頻度が高まっている状況で、ゼロパーティデータを取っていくことは非常に重要だと思います」(堀田氏)
また、ロイヤルティプログラムはポイントプログラムとは異なり、既存顧客だけでなく、新規顧客/未知の顧客に対しても機能する仕組みと言える。チーターデジタルの事例では、「ブランドの愛好者」だけではなく、たとえばランニングなど、「特定行動の愛好者」にリワードを与えるようなプログラムも存在する。「顧客側がブランドを理解・共感し、より深くつながる方法も提示する場」としてロイヤルティプログラムを設計すれば、カスタマージャーニーのすべての段階に影響を与え、経済圏を拡大させていくことも可能になる。
つまり、すでにMAなどのテクノロジーを活用している企業でも、ゼロパーティデータやロイヤルティプログラムを掛け合わせることで、新たな顧客を捉え、顧客ごとに真に適したアプローチをする可能性が拓ける。動画本編では実践例として、ヒルトン・ホテルズ&リゾーツとチーターデジタルが構築しているプログラムが紹介されている。
【ロイヤルティ戦略の再検討・再構築に役立つ】戦略転換のポイントについて、動画本編で詳しく説明しています。視聴はこちらから!