耐久消費財の買い替えを後押ししたパンデミック
セッションの冒頭では、ダイキン工業と日産自動車のコロナ禍の状況が紹介された。
近年、猛暑が続く日本の夏。エアコンはもはや生活必需品となった。ダイキン工業の片山義丈氏によると、エアコンは現在使っているものが壊れたら買い替えようというニーズが高い商品で、買い替えまでのスパンが約13年と長い。だがパンデミックによって人々が自宅で過ごす時間が長くなり、家の中の環境への関心が高まった。特別定額給付金の支給も購買意欲を後押しし、今までよりも良いエアコンを買いたいという要望が増えているという。
特に高まったのが換気への関心だ。そこでダイキン工業は、価格や湿度コントロールの性能といったスペックを押し出すのではなく、「空気で答えを出す会社」というブランドパーパスに基づいたコミュニケーション活動へと軸足を移した。「換気という社会課題に答えを出すべきだと考え、換気に特化したサイトを10日ほどで作りました」と片山氏。サイトへの反応は良く、SNSでも広く拡散され、テレビや新聞などのメディアでも多く取り上げられた。価値を打ち出したコミュニケーション施策が強く求められていると実感したという。
一方、日産自動車の堤雅夫氏は「近年は若者を中心に『クルマ離れ』が進んでいたが、パンデミックは自動車に対する消費者の価値観を大きく変えた」と語る。
まず、人との接触を避けながらプライベートな空間で移動できる点が見直され、自動車の購入に積極的でなかった層も前向きに検討するようになった。きれいな空気への関心も高まっており、ウイルス除去成分の発生装置のWebサイトを、5月の大型連休中に急遽制作したという。
また、パンデミックで在宅勤務が急速に普及したものの、家の中で静かに仕事ができないという悩みを抱える人は多い。そこで、自動車を一つの部屋ととらえるサイト「#OneMoreRoom」を立ち上げ、ダンボールをデスクに変える方法など、快適に仕事ができる環境づくりのヒントをまとめた。
自動車メーカーにとって追い風が吹いているようだが、経済的な不安の高まりは大きな障壁だ。日産自動車では、消費者をサポートできることはないかと考え、支払い開始時期の先延ばしや、来年春までの金利負担額のキャッシュバックなどのキャンペーンも展開している。
数年後に起こると予測していた変化が前倒しで到来
カスタマージャーニーも大きく変化したと、両氏は口をそろえる。エアコンのような高額商品も、最近はECサイトでの購入が増えた。しかし「ニューノーマルだから変わったのだと、何でも安直に結びつけるのはあまり好きではない」と片山氏は言う。
「思いもよらなかった変化が、コロナによって引き起こされたのだとは思いません。情報をデジタルで得る人は、コロナ前にも増えていたので、いずれこうなることは予測していました」(片山氏)
誰もがいずれは実現すると予測していた変化が、前倒しで到来しただけだという。
堤氏も「ディーラーでご説明させていただく自動車選びや特徴の紹介、支払いに関する情報を、前もってオンラインで収集しておきたいというニーズは以前からありました」と賛同。日産自動車では、ディーラーを訪問する前にこれらの内容を相談できるオンラインチャットを、この6月より本格導入している。