残された時間で広告主が打つべき一手は?
高橋:今井さんが海外と国内を比較して感じられていることや、日本独自の課題はありますか?
今井:やはり米国は動きが速いと感じます。データビジネス、IDビジネスに限ったことではなく、トライアンドエラーがとても速いです。まずテストも含めて動き出し、改善していこうという姿勢がみてとれます。
一方で日本のマーケットの動きはとても慎重ですね。日本においては、そもそもデータを蓄積している目的が曖昧になってしまっていることが、足かせになっている部分もあると感じます。それには、代理店が関わる構造も影響しているのかもしれません。広告主とベンダー、プラットフォーマーの間に入ってサポート、管理していただくことのメリットもある一方、代理店は広告主のファーストパーティデータ自体の所有者ではなく、アクセスにも制限があることで、データ戦略を立てることが難しい部分もあると思います。
広告主、代理店から導入をご検討いただくにあたり「インプレッションはどのくらい出ますか?」と聞かれるのですが、人ベースでつながるのが本質のソリューションなので、これまで通りのインプレッションやKPI(CPCやCPA)では測りづらいと思っています。新しい発想が市場全体で求められています。
高橋:するとターゲティングを再定義することになると思いますが、KPIを再定義するにあたり、どういった会話が多いですか?
今井:LTVが大きなポイントになります。いままでのデジタルマーケティングでは、新しいユーザーを見つけることが最も重要な一面だと考えられていて、この視点が後回しになっていた感を受けています。
もうひとつ重要なのは、いままで会話の中であまり大きくとりあげられてきていなかったロイヤルティに応じた施策です。たとえば自社の顧客ユーザーデータ100人を分析したときに、20人は高頻度で使ってくれるゴールドユーザー、60人はシルバー、残りはブロンドという具合に、ユーザーグループを分けることができますが、それぞれに対する施策はあまりされてこなかった印象をもっています。IDを紐づけた人ベースのマーケティングで、それぞれのユーザーグループを一段階ずつ上げていく視点をKPIに取り入れていただくことが必要だと考えています。
高橋:Chromeの規制が迫っていて、残された時間はそれほど多くありません。広告主側の次の一手についてどうお考えですか。
今井:現行のソリューションを活用しながら、並行して、新しくどのようなことができるか試行する期間にすべきだと思います。この期間にどれだけ挑戦できるかが大切ではないでしょうか。
高橋:最後に御社の今後の展望を教えてください。
今井:引き続き、パートナー、広告主、パブリッシャーが安心して参画できる中立的なエコシステム構築に尽力していきます。パートナー企業は増加しており、先日もThe Trade Deskが提供するDSP「Unified ID 2.0」と連携を発表しました。
また、関心が高まっているCMP(コンセントマネジメントプラットフォーム)の提供準備も進めています。今まさに日本市場における提供のために、個人情報保護法の改正に合わせてローカライズしており、最終段階まできています。IDソリューションだけではなく、コンプライアンスにも対応したサービスを提供していくことで、日本のマーケターさんが、これからも安心してデータを活用できる世界観を作っていきたいですね。
高橋:本日はありがとうございました。
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