脱Cookieの実行には業界全体の議論が必要
高橋:本連載ではこれまで、ポストCookie時代の戦略やソリューションについてアドテク企業各社にうかがってきました。今回はCriteoの中村さんをお招きしています。
実は私はかつてCriteoに在籍していて、中村さんのチームで働いていたことがあるのですが、そこから時間が経過し、プロダクトの方向性をはじめ様々な点で変化されていることを感じます。まずは最近の御社の状況について教えていただけますか。
中村:これまでCriteoと言えばダイナミックリターゲティングというイメージを持たれていた方が多かったと思いますし、そのリーディングカンパニーというポジションを築くことができていたと思います。
ですが市場の変化やお客様のニーズを踏まえて、デジタル広告におけるすべてファネルを網羅するプラットフォームとして、ポジションを再確立していこうとしています。いわゆるファネルの最下層である獲得の領域から、より上位のミドル、アッパーファネルにおけるプロダクトを拡充してきました。それが成果として形になりつつあり、今年の第2四半期の決算では、新商品の売上は前年比150%と成長しました。このようなタイミングでロゴを刷新し、新たなタグライン「The Future is Wide Open」とともにリブランディングを発表しました。
高橋:アドテク業界全体でも、様々な見直しや戦略変更の動きがありますよね。続いて、この連載のテーマであるサードパーティCookie廃止の動きに関して、御社の見解や方針をお聞かせいただけますか。
中村:まず、そもそもなぜデータの取り扱いをめぐる規制が強化されているかという点については、正しい流れだと思います。ユーザーのプライバシーを尊重する、自らのデータを主体的に管理できるようにする、取り扱いにおいて透明性を持つというのは大切なことで、Criteoが理念としてきたことでもあります。
そのうえで、それをどう実行に移すのかについては業界全体で検討していく必要があると思います。今GoogleがPrivacy Sandboxというアイデアを提示していますが、Criteoもそれに対する意見をSPARROWというかたちで提案しています。サードパーティCookieの完全廃止が2023年後半に延期され、議論を深める時間ができたので、当社も含め、議論に参加していくことが大切だと思います。
3つの方向性で脱Cookieへの道筋をつける
中村:Cookieの問題で最も懸念していることの一つが、“ウォールド・ガーデン”がさらに強化されてしまうことです。すでにいろいろな場面で指摘されていますが、ユーザーデータへのアクセスが制限されることで、ウォールド・ガーデンの外側にあるパブリッシャー、メディアオーナーの収益化が難しくなると予想されます。ですがユーザーの体験はウォールド・ガーデンの中だけで完結するわけではなく、それ以外の場での活動も多く含まれます。Criteoは「オープンインターネット」を体現するために、広告主サイドと媒体社サイドが参加し、価値交換ができるネットワークを作っていく方針です。特にSSPとしての機能にあたる部分を強化しようとしています。
高橋:ありがとうございます。サプライサイドで良いパフォーマンスを出すことが、翻ってデマンドサイドでの価値を高めることにつながるので、両者は切り離せないですよね。先ほど少しネットワーク構築の話が出てきましたが、現在進めている具体的な対応について教えてください。
中村:主に次の3つの手法について並行して開発・検証を進めていて、将来的には複数の手法を補完的に使っていくことになると予想しています。
(1)コホートベースのアプローチ:Googleが提案するFLoC(Federated Learning of Cohorts)のテスト、検証など
(2)ユーザーレベルのアプローチ:Criteo独自の1st Party Media Networkの構築など
(3)コンテクスチュアル:Cookieに依存しない新しいターゲティング手法の開発