1人でも欲しいと思う人がいそうなら試してみる
廣澤:昨今、「共創」というキーワードは確かに良く耳にしますが、個人的には本当の意味での「共創」というのは非常に難しいのではないかと思っています。確かに、お客さんを呼んでアドバイスをもらいながら共同で商品開発を行うケースはよく聞きますが、結局、ある程度メーカー側が事前に価値を規定しているケースが多いのではないかと思っています。
これまでも洗剤であれば「汚れを落とす、白くする」、地肌ケア系のシャンプーであれば「フケ・かゆみを防ぐ」といった具合に価値を企業が定義してきたわけですが、ユーザー・イノベーションだと価値はどのように定められていくのでしょうか。

岡田:どちらも重要で、自社商品にこういった価値があると規定してニーズがある程度あるならそれでいいと思います。一方で、意外とユーザーのほうが様々な使い方を発見しているケースもあります。
たとえば、マスキングテープは元々建築現場でペンキがはみ出ないようにするテープでした。しかし、あるユーザーがマスキングテープ特有の透け感やちぎった感じの可愛らしさに着目して「こんな色のマスキングテープも作って欲しい」と企業に提案したんです。
そして、その提案をきっかけに、ヒットにつながっておしゃれなデザインも増え、雑貨屋などに並ぶようになりました。そのため、企業が建築現場で使いやすいと規定するのも大事ですが、既成概念にとらわれず、新たな使い方をするユーザーがいて、1人でも買ってみたいというお客様がいるなら試しに売ってみるべきです。
誰が考えたアイデアかというプライドはいらない
廣澤:企業目線だと、ユーザーのアイデアに投資してリターンがあるのか悩むと思うのですが、そこに対してはどう決断すべきなのでしょうか。
岡田:そのユーザー・イノベーションがどのくらいの市場になるかはわかりません。そのため、いくつかのアイデアからユーザーに選んでもらったり、クラウドファンディングを行ったりするなど、スモールスタートで徐々にスケールさせるのがよいと思います。
誰が考えたアイデアかというプライドは捨て、世の中に求められているならお客さんのアイデアであっても活用すればよいのではないでしょうか。
私自身、ユーザー・イノベーションに出会う前はユーザーがよいアイデアを考えると思っていませんでした。しかし、画期的なアイデアを出すユーザーはいます。大事なのは、数少ないイノベーティブなユーザーのアイデアを探す仕組みを構築することです。
廣澤:ビジネスにおいてアイデアの探索にお金をかけきれていないケースは多いかと思いますが、ユーザー・イノベーションの考えを活かしてアイデアを探索する仕組み作りができると、新たなイノベーションが生まれるのかもしれません。岡田さん、ありがとうございました。
