解説コラム:成功しているブランドの根底には理念が息づいている
社長から「既存事業の延長線上にない、新しい事業を創ってほしい」と言われ、まず「パーパス(大義、存在意義)」から始めようと決めたチームメンバーが最初に行ったのは、まず様々な企業やブランドのパーパスを調べてみることでした。
ただ、自社はともかく、他社のブランドパーパスは必ずしも公にされていないことも多いでしょう。その全容は発信されている広告やブランドの歴史、企業もしくはブランドの理念などを調べてつなぎ合わせ、類推するしかないことが多くなります。
世に出ている情報からその裏側、本質を推理し、構築しなおしていくこの作業は、デコンストラクション等とも呼ばれますが、この過程でみらい製菓のチームメンバーは、成功しているブランドの根底には、その企業の理念・ルーツが息づいていることに注目し、あらためて自社のルーツを再確認することから始めよう、という考えにたどり着きました。
既にモノはできていて後はブランドをあつらえるだけ、というような状況とは違い、新規事業の立ち上げをパーパスドリブンでやってみよう、ということですから、まずは「なぜ(自社は)その事業を手掛けるのか?」という「WHY」が重要になります。チームメンバーはそれを掴むため、創業者がやっていたという、お客さんとの対話の再現を試みます。
ところで、マーケティングの定説に「仮説を持たずにリサーチしてはいけない」というものがあります。この定説からすると「まずはお客さんの話を聞いてみよう」というやり方は、ある意味邪道とされるのかもしれません。
ですが、時には何の前提も持たずに、とにかくお客さんの話を聞いていると、だんだんと聞いているこちら側に「軸」のようなものが出来上がっていく瞬間があるのではないかと思います。私自身の経験からもそう思いますし、ある著名な消費財メーカー出身のマーケターによると、洗剤のリサーチのためにひたすら家庭訪問をし続けていたら、最後には玄関のドアを開けた瞬間に、100%どの洗剤のユーザーかわかるようになった、という逸話もあります。
また、メーカーの多くは、実はBtoCではなくBtoBtoC、つまり直接生活者と接するのではなく、流通や販売代理店を経由して、お客さんにモノを届けていることが多いのではないかと思います。そのこと自体は決して悪いことではありませんが、ともすれば実際のお客さんのことは調査でしか知らない、という状態になってしまうこともあるのではないかと思います。「共創」という言葉もありますが、企業側の視点だけでは生み出せない価値を、お客さんも含めた多様な立場の人たちと対話しながら作り上げていくことが、今、強く求められていることは間違いないと思います。
さて、みらい製菓の新規事業チームメンバーは企業理念である「お菓子で世界を笑顔にする」からスタートし、自分たちなりの「WHY」を掴むために、とにかくお客さんに会って、走りながら考えようと決めました。パーパスは、ただ聞き心地の良い言葉を額縁に入れて飾っておくようなものではなく、現場に息づき、関わる人たちすべてを奮い立たせ、力を与えることができるものです。
何の前提もない新規事業の、まだ見ぬ顧客である「誰か」つまり「WHO(for Whom)」を見つけることができるでしょうか。その新規事業が本当にパーパスに基づいたものであるならば、「WHY」は、その「誰か」の力になること、必要とされ、共感され、応援し、応援されることになるのかもしれません。
