では、どうすればよいのか?
ここまでブランディングにおいて無意識に入り込む重要性を強調してきたが、どうすれば実現できるのか。もちろん上記で記述したブランドを構成する要素の独自性を担保した上で定義するということが第一歩になるのだが、それを話し出すと方法論を含めとても長くなってしまうので別の機会とし、本稿では根本的な部分である(1)人々の無意識を掘り起こして知り、(2)人々の無意識を意識的に変えるということを説明したい。
P&Gでは、統計学的に立証されたものから、試行錯誤しているものまで、無意識を探る方法が常に刷新され開発され続けている。消費者の1日に密着して日常生活から深掘りするのはもちろん、昔から存在するビジュアルを用いた手法*など、実に様々だ。
* ビジュアルイメージを渡して、その人に特定ブランドのコラージュなどを作ってもらい、なぜそのビジュアルを選んだのかをヒアリングしていく手法など。
たとえるなら無意識とは、一見澄んで見える水たまりに沈んでいる泥に潜んでいるようなものである。水たまりに石を投げると、沈殿していた泥が舞い上がり浮かび上がってくる。人間の場合も、様々な刺激物を投げかけてマインドを掘り起こしてみると、違和感や納得感が現れ、無意識を言語化できるようになる。言葉には簡単には表れず、こちらが彼ら彼女らの無意識に潜んでいることを察したり、逆にこちらが言葉にしてあげたり、生活や仕事の中にある「くせ」や「しぐさ」から見抜いたりすることが必要で、経験とコツが求められる。
また、ブランドの計測に関してもP&Gでは独自の手法を取っており、そこにはシェアの高いブランドがほとんどの指標でより高く評価されるというバイアスを平準化する作業も含まれている。つまり、単純な純粋想起やイメージ調査ではないということである。単純な調査では、常にシェアが高いブランドが基本的には上位にくるが、それが実際に売上や人々の行動に影響を与えているかはわからないためである。このため筆者は日経ブランド調査やCM好感度調査などはほとんど参考にしていないし、広告賞などもほぼ気にしていない(興味本位で見たりはするが)。
“意識(想起)する瞬間”を捉えアプローチする
人々の無意識に入り込む、もしくは意識させるというのは、人々のカテゴリーの中の意識をリフレッシュするということであり、それこそがいわゆる市場またはカテゴリーやブランドの再定義である。
また、人々がそのカテゴリーへのアンテナを張る瞬間、もしくはブランドが想起される可能性のある瞬間を逃さず捉えることも重要である。これをReceptivity(受容性)という。そこに買おうか迷う瞬間の切迫した需要が生まれ、最終的に購買に至る。
たとえば、スポーツをしていて喉が渇き、近くに自動販売機があり、そこで飲料を買おうとしたとする。その中にスポーツドリンクAとBがあり、Aが「スポーツで失われた水分の浸透率が水の3倍のスポーツ専用飲料」とCMで謳っており、スポーツ後すぐに水分を補給できるというイメージを訴求していたとする。それがたとえば「ゴクゴク潤い、筋肉まで浸透」というようなコピーとビジュアルで表現されており、その自動販売機のPOPで同様のことが書かれており、Bと迷った挙げ句、今回はついAを買ってしまう、といった具合である(もちろん、ブランドの構成要素に沿って、デザインなどは表現されている必要があるし、ターゲットの無意識に「水分が隅々まで浸透すること」が重要だが満たされていないことを理解しておく必要がある)。
この例でスポーツドリンクAには「浸透率が3倍」という独自性(特にベネフィット)があった上で、スポーツ専用飲料と言い切ってカテゴリーを再定義し、それが「ゴクゴク潤い、筋肉まで浸透」という感覚的な表現とビジュアルで訴求されているからこそ無意識に入り込んでいるし、カテゴリーへのアンテナを張る瞬間を捉えたことで購買に結びつけていることがわかると思う。また、これこそがコンビニや小売店の棚での露出が重要な意味を持つ理由であり、特に飲料の場合、日本では自動販売機がその役割を果たしている場合もある。
この「無意識に入り込み行動を起こさせる」ということが重要であり、この点が、組織一体としての強さということに加えて、P&Gマーケティングの本質である。次回は、そのファーストステップである、カテゴリーとユーザーを理解するということについて、より具体的にお伝えしたい。