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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングの本質を探る

消費者の無意識に入り込み、行動を変えたブランドが市場を制する

P&G出身者が他の企業でつまずく理由

 それゆえ、P&G出身者が転職して始めにつまずくことがあるとしたら、同じような組織形態を想定してマーケティングを実行してしまおうとする点にあると思う。本来は、組織にマーケティングの考え方を浸透させる、というところから始めなければいけない

 組織全体でマーケティングに取り組むためには、これまでの組織の考え方や仕事の進め方を変えざるを得ない。スタートアップ、また中規模の企業であれば、柔軟な変更が可能なことも多いが、大企業になるほど、経営層を巻き込む必要があり、今までマーケティング的な考え方をしてこなかった人たちの理解を得る必要がある。もし、P&G出身者のような外部から来た人が大企業を変えるなら、組織の考え方や関係を理解するために、現場レベルでの“飲みニケーション”やマネジメント層を巻き込む政治力も求められる。

 マネジメント層を説得しトップダウンで現場に落としこんでもらうやり方もあるが、それでも完全に考え方や進め方まで含めて実行してもらうことは現実的ではない。グローバル企業になれば、グローバルの組織も関係してくることから、さらに困難になる。このあたりは解決策も含めて次回以降で取り上げる予定である。

 プロセスやテンプレートを作って、オペレーションにしてしまう方法も耳にするが、(P&G内でもたまに起こる)マーケティングの本質ではないプロセスやテンプレートだけに沿って「形式的に」マーケティングを実施しても、うまくいかないことがほとんどだ。組織に入り込み、マーケティングを浸透させる必要がある。

マーケティングとは何か、その2つの定義

 マーケティングの本質について論じる前に、マーケティングの定義を整理しておきたい。筆者はマーケティングには、大きく分けて2つの定義があると考えている。一つは狭義の広告宣伝で、マーケティング&コミュニケーションズ、マーコムと呼ばれることもあるが、単に“マーケティング”と呼ばれている場合もある。

 もう一つは広義の市場創造=ビジネスそのもの、という考え方である。どちらが正しい/間違っているという話ではないが、本質的かつ継続的に成果が大きく上がりやすいのは広義のマーケティングであり、P&Gのマーケティングは完全にそちら側である。

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 広義のマーケティングでは2つのマネジメントが問われる。「ビジネスマネジメント」という側面が一つであり、組織全体に如何に影響を与えて人を動かすかというリーダーシップと共に、利益を継続的に上げることが求められる。

 そしてもう一つは「ブランドマネジメント」であり、これは継続的に売上・利益を上げる、もしくはユーザー数を増やすための、マーケティングの仕組み作りを指す。ビジネスマネジメントは別の機会で触れることとし、本稿では特にブランドマネジメントに関してお伝えしたい。

 ちなみに2つをまとめると、経営ということになる。これがP&G出身者が経営層に近づけば近づくほど活躍できている所以なのである。

ブランドマネジメントで向き合うべきは「無意識」

 ブランドマネジメントにおいて向き合うべきは、「消費者の無意識に入り込み行動させる」ということである。なぜなら消費者は、物やサービスを使ったり買ったり(もしくは使わなかったり、買わなかったり)を半分以上は無意識で判断しているからである。逆に意識をする瞬間には半分以上決まっていると言われる(8割決まっているとするデータすらある)。

 では人はなぜ無意識で判断するのか。それは人間が物事を効率よく処理することで進化してきた生き物であり、日々の活動の中で自動化できるところは自動化してしまう生き物だからである。アイコンだけ見てそこに意味を紐づけられるのも、それが理由である。たとえばスーパーで魚売り場があれば、その近くに肉売り場があると無意識で考え、肉を買うつもりがあれば、魚売り場を見た瞬間に無意識に肉売り場の方に行こうとするのではないだろうか(生鮮食品というグループで無意識に判断している例)。

 無意識に入り込むというと、同じ名前を連呼するとか音楽に合わせてリズムで覚えさせるといったアイデアをあげる人がいる。確かにこうしたやり方がうまくいくカテゴリーもあるだろう。しかしその前提にはやはり、ブランドが独自に形成してきたイメージやベネフィットなどの資産がある。ブランド資産があるからこそ、無意識に残るのだ。

 かつて、アリエールという洗濯洗剤を担当している時、大きな古時計の音楽にのせてアリエールという名前を無意識に消費者の頭の中に入れこもうとしたことがあった。おそらく皆さんは覚えていないのではないか。結果もその通りだった。ではなぜ「ポリンキー、ポリンキー、三角形の秘密はね?」は残っているのか。しかし、なぜポリンキーがポテトチップスほど継続的に売上が伸びていないのか。これらの疑問には、次回以降の記事で答えていきたい。

次のページ
ブランドへの“好き嫌い”と売上の関係性

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この記事の著者

里村 明洋(サトムラ アキヒロ)

アドビ株式会社マーケティング本部 常務執行役員/シニアディレクター。兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社。営業からマーケティングまでP&Gとしては異色のキャリアを築き、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Googleに転...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/01/27 07:00 https://markezine.jp/article/detail/34939

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