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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングの本質を探る

消費者の無意識に入り込み、行動を変えたブランドが市場を制する

ブランドへの“好き嫌い”と売上の関係性

 ブランドとは様々な構成要素によって成り立ち、会社のすべての活動で表現される。その表現は広告のみならず、デザインの部署はもちろん、研究開発、営業もしくは営業のためのツールや売り場、また小売業や卸業との契約形態、ならびに法務の広告コピー審査や経営の戦略的投資判断にいたるまで、すべてで意識される。基本的には短期的な活動の継続によって徐々に強められ、蓄積されていくものである。

 つまりブランディングの目的は、短期的には「人々の行動 = トライアルか購買」という結果を出すことであり、中長期的にはそれらが資産として積み重なってすべての活動に対する効率が高まっていくことである。つまりブランディングは本来、短期的な行動や購買にも、中長期的なすべての活動の効率化にも、どちらにも効果を出すものなのである (カテゴリーによって短期と中期の期間は違うが、これは次回触れる予定だ)。 

 なお、ブランドというと、「ブランドラブ」「ブランドのファン」などといった“好き嫌い”を語り出す人もいるが、筆者はそれらがビジネス上どこまで意味があるのか、甚だ疑問に思っている。なぜなら売上は人が思っているほどヘビーユーザーから構成されているわけではないからだ。

 たとえばナイキの靴を年間5足以上購入するナイキファンは年間の売上のうち、何%だろうか。実はほとんどのカテゴリーにおいて、売上の半分以上はライトユーザーから構成されている*。そしてライトユーザーはまさに購買を検討する瞬間に、無意識に入りこんだ2、3のブランド群から最終購買するものを選択している

* Sharp, Byron, & Romaniuk, Jenni. (2007). There is a Pareto Law - but not as you know it.  Ehrenberg-Bass Institute report for sponsors. University of South Australia.

ブランドを構成する3つの要素

 ブランドを簡単に説明することは困難であるが、ここでは誤解を恐れずに敢えて説明させていただく。ブランドはその存在意義(Purposeと呼ばれるもの)の下、そのブランドでしか体現できない独自性をもった次の3つの要素からなるとされる。

(1)ベネフィット(個人的には最も重要な要素)

ブランドが提供できる価値で、それによって生活や仕事がどのように変わるのかまでを想像させる便益。人がその体験を具体的に想像できるかどうかがポイントである。

 なお、ベネフィットはブランドを狭く定義し過ぎる差別化とは異なることに注意してほしい。他のブランドでも「体験できる」かもしれないが、他のブランドが提供すると違和感が生じる場合が多い。「やわらかさ」と一言で言うのと、「1日が楽しくなる快感的なやわらかさ」というのは同じ機能でも強さや種類に違いがあり、後者に独自性があることがわかると思う。

 また、ベネフィットは通常プロダクトの機能そのものから始まり、コミュニケーションで最大化されるのと、「楽しくなるやわらかさ」のように情緒的便益が重なって独自性を増すことが多く、そうなることで人々の感覚を刺激する体験を想像させる (情緒と機能が別々ではなく、1つのベネフィットとして存在する)。カテゴリーによって違うが、「できるビジネスマンになったかのような気分にさせてくれる」といった、情緒的便益に重きを置く時もある(特にラグジュアリーなブランドなど)。

(2)ブランドの人となり

そのブランドの形容詞たるものであり、たとえば英国紳士のようにかっこいいブランドなのか、韓国のアイドルのように華やかなのか、など。また、先述のベネフィットが違和感なく繋がるものである必要があり、ここでもそのブランドが独自に形成できることが重要である。

(3)ユーザーの頭に残ってほしい、ブランドを一言で表現したコアベネフィット

What the brand stands for、たとえばUSJがブランド自体を「総合エンターテイメントパーク」と表現しているもの。構成要素の最上位に位置するものである。

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 これら3つの構成要素によってブランドの基礎が作られ、そこからブランドのデザインメタファーに落とし込まれ、最終的にキャンペーンやコミュニケーションのアイデアとしてデザインやアイコニックに記号化されて象徴的に表現される。また、その表現は、消費者の感覚を刺激するものであるとなお効果が高い。

 そのブランドの構成要素、特にベネフィットを表現せずに、ただブランドへの好意(選好度ではない)を上げるため、競合に対抗して自社のイメージを高めるため、または統一感を持たすためなどといってデザインを変えただけのものをたまに目にするが、筆者に言わせればそれはブランディングではない。ただのデザイン変更、もしくは多額のお金を要する割に、効果が見えにくい非常に効率が悪いブランディング活動である。

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では、どうすればよいのか?

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この記事の著者

里村 明洋(サトムラ アキヒロ)

アドビ株式会社マーケティング本部 常務執行役員/シニアディレクター。兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社。営業からマーケティングまでP&Gとしては異色のキャリアを築き、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Googleに転...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/01/27 07:00 https://markezine.jp/article/detail/34939

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