実務家の視点から、行動経済学を紐解く
今回紹介する書籍は、『トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口』。著者の楠本和矢氏は、人材育成を支援するHR Design Lab.の代表を務め、組織の創発力強化・生産性向上を目的とした取り組みに注力しています。
消費者理解のために、行動経済学に興味をもつマーケターは多いのではないでしょうか。同氏もその一人で、各種理論のわかりやすさ、おもしろさに心惹かれるともに、マーケティングへの活用ポテンシャルを感じたといいます。しかしながら、いざ実務に落とし込むとなると、とっかかりが掴みづらい……。そこで同氏は、行動経済学をマーケティングにつなげることを目的に、理論を施策に落とし込む方法を試行錯誤。本書では、行動経済学の各種理論から、マーケティング施策アイデアを導出するための「26の切り口」をまとめ、それを施策に活かすためのポイントを解説しています。
理論を施策に落とし込む5つのステップ
「26の切り口」の一つ「ユーザーを広告塔に」は、行動経済学の「バンドワゴン効果」をベースに、ユーザー自身を広告塔として機能させるアプローチです。
「ユーザーを広告塔に」を活用したフリーメール会社の事例
フリーメールのユーザーが未利用者にメールを送信すると、相手のメール下部に「あなたもこの『フリーメール』を使いませんか?」という文章が自動で表示される仕組みを導入。これにより、ユーザーがメールを送れば送るほど、自走的に新サービスの認知が進むように。低コストでのユーザー拡大に成功した。
では、この例のように「26の切り口」を施策に落とし込んでいくポイントとは。同氏は、「アナロジカル・シンキング」が有効だと説いています。アナロジカル・シンキングとは、ある事例の成功要因から汎用可能な仕組みを抽出し、それを他の事例に転用する方法を考えていく思考法です。具体的には、次の5つのステップで進めていきます。
- ステップ1:商品・サービスの前提条件の整理
- ステップ2:「顧客価値」の掘り起こし
- ステップ3:「阻害要因」の探索
- ステップ4:「26の切り口」を使ったアイデア導出
- ステップ5:アイデアの絞り込みと精緻化
本書では5つのステップの進め方について、架空の家庭用小型ロボット「ロボミニくん」を例に解説しています。ここでは、アイデアを創出する上で起点となるステップ3から、大まかな流れをご紹介します。
「ロボミニくん」を手掛けるプロジェクトチームは、商品を購入、継続利用してもらいたいと考えています。それを阻害する要因はどこにあるのか、ユーザー調査やデータ分析などを基に調べたところ、「認知がない」ことがわかりました(ステップ3)。これを解決するべく、「26の切り口」を照らし合わせてみると「ユーザーを広告塔に」という切り口が当てはまりそうです(ステップ4)。「ロボミニくん」のプロジェクトチームはこれを基に、以下のようなアイデアを導出することができました。
「外出が楽しくなる機能」
「ロボミニくん」を連れ出すと、街の感想を話したり、写真を撮ってくれたりする。また、他の「ロボミニくん」に近づくと、教えてくれる。
「『ロボミニくん』が電話に参加」
「ロボミニくん」のユーザーに電話すると、相手に挨拶したり、たまに会話に入ってきてくれたりする。
その後は、全体のマーケティング戦略と整合性が取れているか、阻害要因を解決することができるかなどの視点から、アイデアを検討・精緻化していきます(ステップ5)。
本書ではこのように、行動経済学の理論をより実効性のあるものへと昇華させています。「行動経済学の理論をマーケティングに活かしたい」「いつもと違った観点から施策を見直したい」「新たなアイデアを創出したい」という方は、ぜひ本書を参考にしてみてください。