※本記事は、2020年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』60号に掲載したものです。
2020年は巣ごもり消費が顕著な1年に
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 久我尚子(くが・なおこ)氏
2001年、早稲田大学大学院理工学研究科修了、NTTドコモ入社。2010年よりニッセイ基礎研究所。2016年より現職。専門は消費者行動、心理統計。様々なデータから若者や女性、子育て世帯などを中心に暮らしや価値観の変化を読み解いている。内閣府や総務省の統計関連の委員を歴任。著書に『若者は本当にお金がないのか? 統計データが語る意外な真実』(2014、光文社新書)など。
最初に、2020年の消費者行動を振り返りたいと思います。皆さんも実感があると思いますが、2020年で一番大きな消費者行動の変化は巣ごもり消費へのシフトです。多くの方が不要な外出を控え、自宅からオンラインでの買い物やサービス利用を積極的に行うようになりました。
これにより大きくマイナスの影響を受けたのは、外出がキーになるものです。旅行やレジャー、外食、洋服、アクセサリー、化粧品もメイクアップ用品への消費は著しく下がりました。また、マッサージやエステ、病院での診療といった接触の発生するサービスの利用を控える人も増えています。
一方、消費が増えたものも数多くあります。特に自宅での食に対する消費は全般的に伸びており、パスタやカップ麺、米、肉などの各種食材はもちろん、アルコール類やデリバリーサービスなどの消費も増えました。また、家で過ごす時間が増えたことで、自宅でお菓子を作るといった需要が高まったことから、小麦粉などの材料や調味料の支出額も増えました。
また耐久財に関しても、自宅での利用を前提としたものへの消費意欲が高まっています。たとえば、テレワークの定着化が進んだことでパソコンや家具を買う方が増えました。
消費の抑制は今後さらに進む可能性が
これらの動向は、緊急事態宣言が解除されて以降、ものによっては少しずつ戻りつつありますが、全体として大きく状況は変わっていません。最近ではGoToトラベルやGoToイートといった政府による需要喚起策が進められていますが、我々が9月末に行った調査では、トラベルを利用・予約済みの人は15.2%、これに具体的に検討中(6.1%)を合わせた利用積極層は約2割でした。この他、検討予定が25.9%、利用するつもりはないが52.8%を占めていました。
利用積極層の特徴を見ると、時間とお金に余裕がある人の割合が高い傾向があります。具体的には独身の若い方や子どもが独立したシニア層や子どものいないミドル層の夫婦、子どもがまだ小さい家庭、職業別には公務員や正社員、高年収世帯、その他感染不安が弱く、感染状況の収束や経済回復の見通しが明るい層が積極層の中心となっていました。
また、個人消費全体で見ると、新型コロナウイルスの影響が深刻であることがよくわかります。総務省の総消費動向指数を見ると、2009年のリーマンショック、2011年の東日本大震災を超える大幅な落ち込みがコロナショックによって引き起こされているのです。6月には経済活動の再開並びに特別定額給付金の影響もあり大幅に回復していますが、7月以降は感染が再拡大したことで足踏み状態が続いています。今後はインフルエンザとの同時流行により再び外出が控えられたり、雇用環境が悪化することで収入が減少し、消費を控えたりする動きなどが懸念されます。
現在、失業率は上昇傾向にあり、ビフォーコロナでは2%台前半で推移していましたが、8月以降、3%台に乗るようになりました。また、家計収入にも影響が出始めています。総務省「家計調査」によると、二人以上勤労者世帯の実収入は、5月以降、給付金の影響で大幅に増えていますが、世帯の勤め先収入のおよそ8割を占める世帯主収入は、前年同月と比べてマイナスで推移しています。
これらのことを踏まえると、今後、消費の抑制が進む可能性が高いため、企業ができるアプローチとしては、商品価格の値下げなどが考えられます。たとえば無印良品は2020年10月に衣料品の価格見直しを行いました。セールによる密集などのリスクを下げながら、消費者の需要喚起を促しています。このような価格の見直しは、効果的だと考えます。