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顧客を理解し、EC・店舗で売れるコマース体験を作る方法【博報堂DYグループ×デロイト デジタル】

 コロナ禍でECでの購買が一層浸透した一方、ECや店舗でのコマース体験にはまだまだ課題が多い。加えてAI技術の発達もあり、コマース体験は大きな変革期を迎えている。本記事では「マーケティング×コマースの近未来」をテーマに、博報堂DYホールディングスのCAIO(Chief AI Officer)である森氏、博報堂プロダクツのDX領域を担う石崎氏、デロイト デジタルでコマース領域をリードする原氏にインタビュー。EC・店舗で売れる体験を作る方法、顧客理解に必要なこと、そして今後カギとなるAIとの向き合い方について聞いた。

マーケティングとコマースの分断が課題

――本日のテーマは「マーケティングとコマースの近未来」です。まず、皆さんが現在のマーケティングやコマースにおいて課題に感じていることを教えてください。

原:現在、お客様からいただく依頼は大きく2つに分類でき、そこにマーケティングとコマースの課題が詰まっていると私は考えています。

 1つは「マーケティングとコマースの戦略構想から一緒に考えたい」という依頼。もう1つは「そもそもEC事業を始めるか始めないかを迷っており、そこから検討したい」という依頼です。

 この2つのご依頼から見えてくるのは、「EC・実店舗含めたコマース体験の全体設計が難しい」「EC事業を始めたとしてきちんと集客して売上を立てられるか不安」「EC・実店舗・マーケティングの組織が縦割りで連携できていない」といった課題です。これらを解決する方法を日々お客様と一緒に考えています。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 原 裕之氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Deloitte Digital 執行役員 原 裕之氏

石﨑:さらに言えば、EC・実店舗はマーケティングファネルの中でも一番購買に近いため、どうしても購買に直結するアプローチに偏重してしまっています。

 しかし、すでにある需要を獲得しているだけでは、顧客リソースが枯渇します。そのために、ブランディングや認知施策が必要になりますが、現状のリソースではそこに対応できていない企業が多い印象です。

 また、購買以前にECサイトへのトラフィックが集めきれず苦戦されている方も多い印象です。実店舗は出店場所次第で常に入退店のトラフィックが発生しますが、ECは常に集客を目的としたプロモーションへの投資が必要です。ECを開けば人が来るという認識の方も多いので、プロモーション投資が重要である認識を持つことは大切です。

森:原さんの話にも出ましたが、組織の分断は現在のマーケティングとコマースにおける大きな課題だと感じています。

 ECにトラフィックを生み出すのは、広告をはじめとしたプロモーションで、主にマーケティング部や広告宣伝部が担当しています。一方で、ECの運用を行っているのはEC部です。このように業務単位で組織が分断した結果、一貫した施策が打てず、成果につながらないケースをよく見かけます。

 さらに、組織の分断はデータの分断も引き起こします。データを共有・統合できている企業は少ないのが現状です。マーケティングとコマース、それぞれに携わる方の連携は急務だと感じています。

直近で取り組むべき「ユーザビリティの改善」と「パーソナライズの高度化」

――今挙げた課題に対し、どのような対応が必要だと思いますか。

原:キーワードを挙げるとするなら、「ユーザビリティの改善」と「パーソナライズの高度化」ですね。

 1つ目の「ユーザビリティの改善」におけるユーザビリティは、ECサイトの操作性といったミクロな話ではなく、顧客を起点にEC・実店舗含めたコマース体験全体のユーザビリティを指します。

 たとえば化粧品などの場合、商品ブランドの認知度は高いが、コーポレートブランドの認知度が低いというケースが散見されます。商品ブランド単位のマーケティングが進んだ結果、データやペルソナがバラバラとなり、各ブランドが同じ会社から出ていることに気づいていただけていないのです。

 昨今、複数商品のブランドを持つ企業様から統合したECサイトを作りたいと相談を受けるケースも出てきていますが、これはユーザビリティの改善が目的の一つだと思います。もちろん、その成功にはメインとなるペルソナ作り、クロスセルやアップセルにつながる商品の提案などが必要になります。

 そして「パーソナライズの高度化」は、顧客のリピート率を向上させる上で重要です。2回、3回と継続して買ってもらうのは難しいので、買った商品の類似商品を紹介するだけでなく、高度なパーソナライズが求められます。

――石﨑さん、森さんはいかがでしょうか。

石﨑:ブランディング・認知を目的にした施策でECへのトラフィックを増加させても、結局どこかで顧客リソースが枯渇するタイミングが来ます。その状況から抜け出す方法は、顧客のロイヤル化です。

 そして顧客のロイヤル化にはデータとリサーチを駆使した顧客理解が必要です。必要なデータを集め、抽象化し、解釈して顧客を理解していく。ときにはインタビューなどを実施し、定性と定量で理解することが重要です。

森:また顧客を理解する際、自社が既に持っているデータだけでは十分でありません。

 ロイヤリティの高い顧客がどんなことを考え、何に今、反応していて、さらにはどんなトレンドに反応する可能性があるのか。他社のデータを活用するのはもちろん、顧客理解に足りないデータは新たに集める取り組みを考えるなど、本当に必要な情報は何か、またどのような分析を行うか考えることが重要だと思っています。

 たとえば、顧客を深く理解するためには「商品を買わなかった」データが重要となることもあります。

 実際に以前、私はそのデータをAIで分析し、ユーザーが欲しい商品と運営者の設定しているカテゴリを正しく結びつけられていなかったことを発見しました。それを受けてECサイトのカテゴリをリニューアルし、売上を伸ばすことができたのです。

ユーザビリティを高める「顧客のストーリーの理解」

――「ユーザビリティの改善」「パーソナライズの高度化」と2つのキーワードをもとに、必要な対策を一部お話しいただきました。ここからは、「ユーザビリティの改善」を実現するために、具体的に何をすべきかうかがいます。

株式会社博報堂プロダクツ 執行役員 Promotion X室 室長 石﨑 優氏
株式会社博報堂プロダクツ 執行役員 Promotion X室 室長 石﨑 優氏

石﨑:より良いユーザビリティを実現するために重要なのは、顧客のペルソナやカスタマージャーニーなど、顧客のストーリーを理解することだと考えています。

 とあるファストフードチェーン店では、10数個のペルソナを用意し、それぞれのカスタマージャーニーを設計してアプローチを変えていました。ファストフードチェーンという1つのお店でもそれだけ緻密なストーリーを設計しています。かなり極端な例ですが、こうした顧客のストーリーの理解は丁寧に行なっていくべきだと思います。

 一方、顧客の理解がないまま購買を促す施策はユーザビリティを損ねます。パーソナライズにも絡みますが、これまでのレコメンド機能のほとんどは、いわば企業側からの押し付けでした。

 顧客の視点で本当に必要なレコメンド機能とは、ペインを解決する品を提案してくれることです。企業は「これを買った人は、どういったペインを抱えていて、何を買うことでペインを解決しようと思っていたのか」まで考えるべきで、売上数字やコンバージョンの数を追って最適化すると、押し付けが加速します。

原:つまるところ、ユーザビリティとは顧客がECや実店舗などのチャネル関係なく、心地良いタイミングで、欲しい商品と出会うことです。

 OMOやオムニチャネルなど、オンラインとオフラインの行き来を前提に心地良い体験を提供しようという動きがありますが、それらもシステマチックに進めるのではなく、顧客のストーリーを踏まえて進められるとより良いユーザビリティが実現できると思います。

データを活用し、顧客の「欲しい商品にたまたま出会う」を叶える

――パーソナライズについてはいかがでしょうか?

石﨑:デジタル技術が普及する前から、パーソナライズは重要視されていました。しかし、コミュニケーションコストがかかりすぎることから、マスコミュニケーションが主流とならざるを得ませんでした。

 ところが現代ではあらゆるデータが取得でき、AIなども活用すれば低いコミュニケーションコストでパーソナライズをできるようになっています。

森:石﨑の言う通り、高度なパーソナライズを実現できる環境は整いつつあります。ここで重要なのは、商品を購入した顧客の全体の特徴を抽象化したペルソナを作ることです。

 パーソナライズとは一人ひとりの顧客と向き合い理解し、一人ひとりに合った提案をすることですが、ペルソナと突合することで、買っている顧客が想像通りかの判断ができますし、より高度なパーソナライズが実現可能になります。

石﨑:顧客が一番価値を感じるのは「欲しい商品にたまたま出会った瞬間」だと言われています。つまりほとんどの場合、顧客の頭の中にその出会いのイメージはありません。

 そのため、ほかのユーザーの特性を抽象化したペルソナを参考に、本人すら気がついていないニーズを考える必要があるのです。

原:この商品を買う顧客群はこういうペインを持っていて、そのペインは「この顧客にも当てはまりそうだ」と考えられるようになるというわけですね。

 パーソナライズに求められる理解の深さは、商材や業界、会社が何を大切にしているかによって変わってきそうです。

「効率化だけに使うのはもったいない」コマースのAI活用

――これまでAIについての話題がいくつかありましたが、現在のコマース業界におけるAIの活用状況はどうなのでしょう?

石﨑:弊社も含めて業界全体で実装の直前というところだと思います。

 Web広告の分野では、クリエィティブ制作に生成AIを用い制作コストを下げて、豊富なバリエーションを用意しA/Bテストをする、という施策を行っている企業もあります。

 ただ、プロモーションの効率化のみにAIを活用するのは勿体ないし、部分的な最適化にすぎません。そのため、博報堂DYグループでは、新たなAI活用を模索しています。

森:博報堂DYグループでは、生活者と社会に資するAIの活用やソリューションの開発を行っています。最近では、博報堂がChatGPTを活用し、ペルソナの構築を手伝ってくれるソリューションを開発しました。

 このソリューションでは、事前に意識調査によって導き出された7,000のペルソナをChatGPTに学習させ、そこに企業様のデータを組み合わせることで、その商材に合ったペルソナを生成することにもトライしています。

 個人のデータを抽象化した7000のペルソナを使うため、個人のためプライバシーを守りながら、精緻なペルソナを生成することができます。

 このように利便性や効率性だけでなく、人の可能性や創造性を高めて新しい価値の創造につながるAI技術を追求すべく、博報堂DYグループでは4月より人間中心のAI技術の先端研究開発を行う「Human-Centered AI Institute」を設立し、研究開発をさらに進化させようとしています。この成果に関しては、コマース領域でも取り入れていくことを考えています。

株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森 正弥氏
株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森 正弥氏

3名の考えるマーケティングとコマースの近未来

――最後に、マーケティングとコマースの近未来がどうなるか、展望を聞かせてください。

原:パーソナライズされた心地よい購買体験が実現できる世界がそこまで近づいてきていると感じます。

 顧客理解を深めるための武器としてデジタル・データ・AIが着実に進化してきており、これらを最大限に活用することで、顧客に大きな負担や手間をかけさせずに、体験価値を上げる。そのために企業側は、マーケティングとコマースが一体となり、顧客体験を設計していく必要があります。

 特に森さん、石﨑さんのお話を聞いて重要だと思ったキーワードは「顧客の“抽象化”」というキーワードです。この抽象化、つまり精度の高いペルソナを効率的に作ることが今までは難しかったのが、今後はデータ・AI活用によって格段に作りやすくなると期待しています。

 デロイト トーマツも、生成AIの技術体験と活用構想の場として「AI Experience Center」を開設しますので、こうした場もぜひご活用頂きたいですね。

石﨑:近未来にChatGPTの登場で起こるかもしれない展開として、顧客が自分でパーソナライズして商品を購入する展開です。

 これまでのパーソナライズは、企業側が収集したデータを用いてロジックを組み、その中で最適であろう商品を提案してきました。

 しかし、ChatGPTを活用すれば、顧客自身がチャットで「こういう課題があるのだけれど、解決する商品はない?」「こういうことしたいんだけど、何が必要?」と聞いて答えを求めることができます。学習して精度も高くなれば、自分の欲しい商品と簡単に出会えるようになるかもしれません。

 生活者視点で考えたときに、コマース=買い物とは本来楽しいものです。今後企業は、技術を活用して顧客の楽しいコマース体験を作りながら、商品の購入につなげていく視点がより必要になっていくのではないでしょうか。

森:ChatGPTによるパーソナライズには大きな可能性があって、顧客ごとにパーソナライズされたECサイトの生成も技術的には可能なところまで来ています。

 従来のパーソナライズは、企業が設けた枠組みの中で、生活者の気に入ったものがあるという状態で、実際のニーズとの乖離が課題でした。

 しかし、AIなどの技術を用いつつ、オンライン・オフラインが融合したマーケティングとコマースを実現すれば、生活者が本当に望んでいたライフスタイルが叶えられるようになるのではないかと感じています。

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この記事の著者

タカハシ コウキ(タカハシ コウキ)

1997年生まれ。2020年に駒沢大学経済学部を卒業。在学中よりインターンなどで記事制作を経験。卒業後、フリーライターとして、インタビューやレポート記事を執筆している。またカメラマンとしても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/06/19 10:00 https://markezine.jp/article/detail/35103