距離感の近さを武器にできているか?
――本日は、北海道共通ポイントカードの「エゾカ」を提供する渡部さん、全国の生活協同組合(以下、コープ)をはじめとするアプリの制作・改善を支援している染矢さんにお話をうかがいます。はじめに自己紹介をお願いいたします。
お話をおうかがいする方
リージョナルマーケティング COO/サツドラホールディングス CMO 渡部 真也氏
ゆめみ 取締役 染矢 幹基氏
渡部:カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)を経て、地元である北海道にUターンしたいと、サツドラホールディングスのグループ会社で地域マーケティングを行うリージョナルマーケティングに入社しました。入社後は地域の共通ポイントカード「エゾカ」を立ち上げています。
染矢:私はクライアントのアプリやWebサイトといったデジタルサービスの開発を行っているゆめみという会社でマーケティングを担当しつつ、自分自身もプロジェクトに参画し、地方の事業会社さんを中心にサービスのデザインを一緒に設計しています。
――ありがとうございます。早速、おふたりが手掛けるサービスについて聞かせてください。渡部さんは前職のCCCさんでもポイントサービス事業に携わられていたとのことですが、提供地域が限定されるエゾカとの違いはありますか?
渡部:エゾカについては、まさに前職のような大手のポイントサービスと同じ土俵ではやれない、やらないということは、かなり強く意識してきました。全国の人口1億2,000万人に対して、私たちは最初から北海道の人口530万人の中での勝負で、マーケットサイズもかけられるコストも全然違います。その代わり、地元に根付いていること、距離感の近さをいかに強みに変換するかが大事だと考えてきました。
「エゾカ(EZOCA)」とは?
全道のEZOCA提携店で利用できる、北海道共通ポイントカード。2014年6月に会員数約17.5万人、提携店276店舗でスタート。サツドラの顧客基盤を起点に会員数が約190万人まで伸長。会員構成は子育て世代の割合が高い。
渡部:マーケットサイズが小さいということは、既にサービスに関心を持っている層だけを相手にしているのではダメで、その場に行かないと見えてこない課題を一つひとつ拾って、自分たちがお役に立てることを伝えていく必要があります。
たとえばエゾカは、人口約7,000人の江差町という街の商店街のポイントカード事業のリニューアルをお手伝いしました。この事業は数十年前に立ち上がったもので、今でも当時のままの磁気カードと読み取りシステムが使われ、オペレーションが煩雑化していたんです。その状況を知ったときに、立ち上げ当時の思いを大切にしながら、仕組みの面で私たちにできることがあるのではないかとお声がけをしました。
他にも、ローカルの企業さんとタッグを組むような動き方は、私たちだからこそできることです。一つひとつの規模は小さくても、それをいくつもいくつもやっていくことが私たちとっての強みであり、結果的にはそれが認知を上げてスケールしていく近道ではないかと思っています。
ヒント(1)距離の近さを強みに変換する
生活を一変させるのではなく、日常に溶け込む体験を届ける
――染矢さんは各地のコープのアプリ制作に携わっているそうですね。どのようなことを大切にしているのでしょうか。
染矢:デジタルで生活を一変させようとするのではなく、ユーザーの日常の中にアプリによる体験をいかに溶け込ませるかがポイントだと思っています。この考え方を特に強く反映し、「生活のまんなかに」というコンセプトを掲げたのがコープこうべアプリです。
コープこうべアプリとは
生活協同組合コープこうべが提供する、対話型のチャットUIによる買い物アプリ。アプリ内で完結する宅配注文機能に加え、お店や出資者であるユーザーが気軽に運営に参加できる機能も搭載。アプリの主目的であった「若年層ユーザーの利用」は144%増加、継続利用者も前年比180%と成長。
染矢:コープさんの特徴は、ユーザーが宅配やお店のお客様だけではなく、出資者である点です。そのため、ユーザーである組合員と一緒に運営方針の策定や地域づくりなどを行っていますが、課題は運営に対する参加率の低下でした。一つの要因が、参加に積極的な組合員層の高齢化や取り組みの多くがリアルな場で行われていたことで子育て世代にとって参加のハードルが高くなっていたのです。そこでデジタルを活用することで、組合員さんが日常の中で無理なく運営に参加できる仕組みをコープこうべさんと一緒に企画しました。