クライアント、エンドユーザー以外の体験にも配慮できているか?
――UXの改善を行うときには、どのようなことを考えていますか? あれもこれも、と考えてしまいがちで、取捨選択はとても難しいと思うのですが……。
渡部:エゾカにとって加盟店さんの数を増やすことはとても大切ですが、提供価値を考える時には、その先の生活者にまで突き抜けて考えるようにしていますね。エゾカの加盟店さんは飲食店もあれば美容室もあればスーパーもあるわけで、すべての加盟店さんに満足してもらう機能を載せようとすると、どんどん複雑になってしまいます。様々な要望があったとしても、エンドユーザーへの提供価値を意識して、その最大公約数まででどう留め置くか、ということが大切だと思います。
実際に私たちは、ポイントカードとしての最低限の機能をAPIとして提供していますが、クーポン機能などは提供していません。それぞれの加盟店さんが独自のアプリを作るときに、それぞれのお客様に合わせてリッチなサービスを載せていってもらえばよい、という方針でいます。
染矢:関わる人全員にとって価値ある体験になっているか、というのは重要な視点ですよね。福井県民生協さんの店舗アプリ「ハーツアプリ」開発時のUXは、店舗のレジ担当者さんも明確に意識しました。というのも、アプリがリリースされることで、レジ担当者さんの手間の増加や、レジ詰まりのような事態が起こる可能性があるからです。
そこで実際の店舗で視察を行い、レジ担当者さんへのヒアリングやレジ前での来店したユーザーの行動・レジ担当者の接客時の行動を洗い出しました。その結果を踏まえて、クーポン使用時にはボタンタップやスクロールなどのユーザー操作ができないような画面を実装したり、利用者の年齢層が高い傾向から色やイラストで識別できる、視認性のよいクーポン画面を提供することにしました。
数ヵ月後に再び視察に行った際、レジの担当者さんが、お客様のアプリの使用が増えているということを嬉しそうに報告してくださったのですが、サービスの浸透を一緒に喜んでくれている、というのは理想的な状況だと思います。
ヒント(4)提供価値を意識し、関わるすべての人の体験に気を配る
地域に根付くサービスでこれから実現したいこと
――最後に本対談のご感想とこれから実現していきたいことについて教えてください。
染矢:本日はUXについて話をしてきましたが、私たち制作会社にとって、その前提となるのはクライアント理解です。ビジネス要件や課題を把握した上で、UXを描くプロセスを重視しており、2年ほど前から外部向けの勉強会などでナレッジを共有・発信してきました。
また、渡部さんとも話をしていたのですが、クライアントが持つ「強み」は自社にとって当たり前で見落としていることがあります。ユーザー視点のサービス提供は、お客さまの強みが活かされたうえで成り立つと思っているので、こうしたポイントをしっかりサービスに籠めていく取り組みを通して、リージョナルマーケティングさんのようにユーザーに根付くサービスづくりに寄与していきたいですね。
渡部:エゾカを通じてやっていきたいことは2つあって、1つは「EZO CLUB(エゾクラブ)」というコミュニティビジネスです。人と人、企業と企業がつながるという構想で立ち上げたもので、既にいくつものコミュニティが生まれています。
もう一つは「コンサドーレエゾカ」のような属性と結びついたカードを、マーケティングに活用していくことです。通常のエゾカを使っているお客様とコンサドーレエゾカを使っているお客様では、購買の傾向に明らかに違いがあるんです。たとえば、コンサドーレエゾカのユーザーさんは、サッポロビールの「サッポロクラシック」を5倍も買っています(注:サッポロビールは北海道コンサドーレ札幌のスポンサー企業)。
この点はデータマーケティングとして、とてもおもしろくて。現状、ポイントカードを使った分析は「この人はこの商品を多く買っている。ということは好きなのだろう」というごく単純なところしか見られていない場合が多いと思いますが、コンサドーレエゾカのような仕組みがあれば、「なぜその商品を多く買っているか」という動機がよりクリアに見えてくる可能性があると思います。
――本日はありがとうございました。