エージェンシーを出る決断をした理由
木下:時間をかければ、ある程度のポジションまでは昇進できると思っていました。しかし当時自分は30歳。より短期間で理想のキャリアを作りたいと思ったことが大きな理由です。
野崎:大手デジタルエージェンシーで一定領域まで行くと、上が詰まる感覚に陥るのはあるあるなんです。構造上、ミドル層が薄くなりがちで早期にマネージメントポジションに上がりやすいため、余計に感じやすいでという側面もあります。
木下:新規事業のプレゼンを役員に対し行ったりもしていたのですが、会社の方向性にあっておらず、少し悶々とする日々が続いていたんです。その中でマーケターとしてまだ経験のなかったSEOやメディアの運営、データの分析などをまとめて経験できる企業はないかと考えて、某金融メディアのマーケター職に転職することにしました。

野崎:そこでは具体的にどんな業務をしていたんですか。
木下:最初は自社メディアのグロースに向けた施策を考え実行していました。その後、企業向けにオウンドメディア構築や運営支援を行うコンサルチームの立ち上げに携わりました。
野崎:きちんと前職で培ったチームの立ち上げに関するスキルを活かしながら、メディアグロースやデータ分析など新しいスキルの会得もしていったわけですね。20代後半以降は未経験という言葉が特に使いづらくなってくるため、うまく軸をずらしながらキャリア形成するのはリスクの少ない選択です。この企業は当時まだ20~30名規模だったと思いますが、この規模のスタートアップに飛び込む際のアドバイスはありますか?
木下:スタートアップは、いち早く成果が求められるので、高速PDCAを回し続けることですね。また、そのためにはハードワークを覚悟する必要があります。そして、今まで自分が経験したことがなかった領域に対してインプットしたり挑戦したりする姿勢も必要になるので、普段の仕事からそういった努力ができているといいと思います。
野崎:裁量権などを求め、大企業体質の会社からベンチャー環境へ転職を希望される方が一定数いらっしゃいます。ただ、今は社内転職に加え副業など選択肢が広がりつつあるので、木下さんがおっしゃっているような覚悟や熱量がない状況で、ベンチャーに転職をしようとするのは高リスクだというのは、ぜひ覚えておいて欲しいです。自社に在籍しながら、副業としてお試しベンチャー体験もしやすい環境になってきています。
マネージャークラスで転職したときこそ現場を大切に
野崎:そこから現在のデジタルアイデンティティに転職されています。事業会社から支援会社に戻られたケースです。どういった背景からこの転職を決めたのでしょうか?
木下:最初は支援会社に戻るつもりはなかったのですが、ご縁があって代表の鈴木とカジュアルに話してみたところ、デジタルアイデンティティは他の広告代理店とは違うなと思ったんですよね。
別の事業会社のマーケティング部長に関するオファーなどもいただいていたのですが、鈴木が目指す世界観と自分が今後マーケターとして目指したい世界観がとても近かったんです。
野崎:代表の鈴木謙司さんの人物やビジョンに惹かれたんですね。経営に近い立場で参画する場合、経営陣との相性は大事な要素です。特に面接という限られたシーンだけではなく、繰り返しコミュニケーションを行い確認して欲しいポイントです。このズレが転職の理由となり相談に来られる方が多いという背景があります。さて、実際に入社後はどのような立ち回りをしていたんですか?
木下:最初はマーケティングオートメーションやコンテンツマーケティングの支援事業の立ち上げを行っていました。また、大手デジタルエージェンシーにいたときの経験を活かし、客観的にデジタルアイデンティティのビジネスや組織を見て、改善すべきポイントを代表の鈴木に提言していました。
ただ、それだけで会社を動かすのは難しいので、現場にどんどん入っていきました。既存顧客におけるコンサルのプレイングマネージャーをして、その後に新規開拓と既存コンサルの組織をまとめ、現在のポジションになっています。
野崎:ここがポイントで、一定の立場で経験者として転職される方の中には、最初の木下さんみたいに評論家的な立ち位置で成果を出そうと図る方もいらっしゃるんですが、うまくいかないケースが散見されます。木下さんのように現場に入って同じ方向を向いて働くことは、マネージャークラスで転職した際にフィットしていくための重要なポイントでしょう。
ここまで木下さんのキャリアを現在まで振り返ってきましたが、ファーストキャリアで差別化を意識した結果、行動量で早期にポジショニングを確立した点、大手デジタルエージェンシーで営業マンからスキルを派生させキャリア拡充をし、新たなコアスキルを会得した点、そしてマネジメントレイヤーとしてキャリアを経営者との人軸で選び、事業会社で新たに得たスキルも活かしてキャリアをしっかりと紡いだ流れは、ミドル層のキャリアとして非常に参考になるのではないでしょうか。
特に経営層に近いポジションで入社する場合は経営者と価値観が合うかどうかが非常に重要な要素です。経験を活かして執行役員に昇進された木下さんの軌跡を参考に、今後のキャリアを考えてみてはいかがでしょうか? 木下さん、貴重なお話をありがとうございました。