モチベーションを高めるライティングの4大原則
本書ではマイクロコピーの書き方を各種のユーザーインターフェイスごとに詳しく解説していきますが、その前に、あらゆるインターフェイスに共通の、ライティングの4原則を紹介します。この原則は、デジタルプロダクトのライティングだけでなく、顧客向けのあらゆるライティングで役立ちます。
1.行動の方法ではなく、行動することの価値を伝える
ユーザーは、特定のページやウェブサイト、またはある種の行動が、自身にとって実際的な価値のあるものかどうかを、ほんの数秒で判断します。つまりあなたは、たった数秒のうちに、そこから離脱せず行動を起こすことの価値を確実に認識してもらわなければならないわけです。
そのためには、あらゆる言葉があくまでもシンプルで、明快で、なおかつ説得力を備えていなければなりません。とにかくわかりやすく要点を伝えましょう:あなたのプロダクトまたはサービスを利用すれば、彼らは何を手に入れることができ、どのような問題が解決され、生活全体がどのように向上するでしょうか。ボイス&トーンのスタイルガイドがあるなら(第1章参照)、今こそ活用するべきときです。すべてはそこに書かれています。
コツは? ユーザーが利益を得るために必要な手順や方法を伝えるのではなく、ユーザーが何を得るかをテーマとして書く。
例
こうではなく:正しい財産管理のための多彩なツール
こう書きます:債務ときっぱり決別しましょう
または:債務に最後のお別れを
こうではなく:中古車の新しい購入方法
こう書きます:次の車を買いましょう、この方法なら安心です
または:中古車購入―面倒な手続きはゼロ、保証は万全
まず自問します:あなたのプロダクトまたはサービスを利用した人々に、どんな変化が起こるか? かつてはできなかったどんなことができるようになるか? あなたが彼らのために解決できる問題は何か?
そしてそれを伝えます。
ひとつ、気に留めておきたいことがあります。私たちはつい、自身のブランドやプロダクトやサービスについて語りたがるものだということです。それがどれだけ素晴らしいか、何を提供できるか、それがどんな利益に結び付くか? これらは確かに重要な問いであり、その答えは必要です。
けれどもユーザーに行動を起こしてもらいたいなら、自分について語ることは止めましょう。語るべきなのは、ユーザーのことだけです。あなたが何を与えるかではなく、彼らが何を受け取るかです。あなたが彼らの問題をどう解決してその夢をかなえるかではなく、彼らが自身の問題とどう決別して自身の夢をかなえるかです。
この言い換えは、多くの場合、ひとつの法則だけでできます。ポイントは、文章の主語を、語りかけている相手にすることです。
こうではなく:登録手続きが、迅速な支払いを実現します(主語は“登録手続き”)
こう書きます:ユーザー登録をすると、すぐに支払いができます
こうではなく:ギフトカードは、25の指定店舗での買い物を可能にしてくれます
こう書きます:このギフトカードがあれば、25の指定店舗で買い物ができます
2.ニコニコ効果、ワクワク効果
クリフォード・ナス(第1章参照)の報告によれば、メッセージの中にユーモアがあると、人々は自己肯定感を高め、インターフェイスをより好ましく受け止め、何より重要なこととして、相手からの提案を受け入れて、協力的に動こうとします。ただし、必要以上に知性を問うようなユーモアや、複雑な言葉遊びは避けるべきだと、彼は忠告します。そうでないと、場合によっては一部のユーザーが理解できず、置き去りにされたような気持ちになってしまうからです。
また、ユーモアに関してもやはり、スラングのときと同じように、人種差別的な表現、性差別的な表現など、誰かに不快感を与えるような言い方をしてはいけません。また、ユーザーが乗り越えなければならない苦痛や困難をネタにするのも厳禁です。良質で罪のないユーモアだけにとどめましょう(30ページの7つのヒントを参照のこと)。
ワクワクするような気持ちも、ユーザーが前向きになり、やる気を出すきっかけとなります。コップの水理論でいえば、まだ半分もあるというプラス思考になり、リスクを取ることを恐れず積極的に行動する準備が整うのです。
ナス教授の研究報告にもあった通り、ワクワクする気持ちがあると、人は何らかの行動を起こしたくなり、何も決断しないままで済ませるのではなく、何かを決断したいと望むようになります。ですから、ユーザーをワクワクさせることに成功したら、ゴールはすぐそこです。
3.ユーザーに敬意を払う:行動へのお誘い
行動喚起(Call To Action、CTA)という言葉がありますが、私はそれを、行動へのお誘い(Invitation To Act)と言い換えることがあります。なぜでしょうか?
おそらく私自身が、自分の行動に口を出されることを好まないからだと思います(誰かの行動に口を出すことも苦手です)。私が嬉しいのは、行動することのベネフィットをわかりやすく説明し、私のために扉を開いてくれるやり方です。そこから足を踏み出すかどうかは、私に決めさせてほしいのです。
押しの強い手法は、サービスや販売の現場で短期的には通用しますが、私たちがウェブサイトやアプリで構築しようとしている望ましい関係性には結び付きません。私たちがつねに目指すのは、ブランドへの信頼と、継続性と、感情的なつながりのある関係性です。
そうすれば、楽しい記憶を積み重ね、長く関わり合っていけます。一度きりのやり取りではなく、これからも、いつまでも、利用し続けてもらいましょう。あなたの一番好きな有名ブランドが、きっとお手本です。そのアピール力、エレガンス、そして互いを尊重し合う精神のことを思い浮かべてみましょう。
コツは? ユーザーに対し、望ましい行動がどんな利益につながるかを説明し、それを実行するよう誘い掛けましょう。前向きにやる気を引き出すような、押し付けがましくない表現が大切です。不誠実な引っ掛け手法には決して頼らないでください(TIP 08参照)。
行動へといざなうメッセージが、ユーザー自身にとって重要な物事を伝える内容かどうかを検証しましょう。ユーザーとの間に、どのような関係性を長く続けていきたいかを見据え、ユーザーへの敬意を込めて書いてください。
4.ソーシャルプルーフ(社会的証明):皆で渡れば怖くない?
人間は社会的動物であり、ときには驚くほど社会性を強く示すことがあります。ソーシャルプルーフとは、人々が自分の行動を、周囲の人々の行動に合わせて決めるという心理的傾向を指します(群集心理ともいいます)。
たとえば私たちは、さびれたレストランよりも混んだレストランのほうに足が向きます。あるいは、すでに「いいね」をいくつも獲得しているコンテンツの方が、まだ誰からの反応もないコンテンツよりも、「いいね」ボタンを押しやすい気がします。
他の人々も同じ分岐点で同じ行動を選んだ、という事実がわかると、ひとつの状況の中にある不確かな要素が減り、これを信じてよいのだと思えるのです。そして、すでにその行動を選んだ人々の輪の中に自分も加わろうという気持ちが生まれます。
ソーシャルプルーフはコンバージョン率を劇的に高めるとの研究報告があります(ロバート・チャルディーニ教授の著書『影響力の正体:説得のカラクリを心理学があばく』岩田佳代子訳、SBクリエイティブ)。また、ポジティブなソーシャルプルーフをボタンのすぐ近くに配置すると、クリック率が上がります(ボタンについては第11章で詳しく解説)。
CTA(行動喚起)の一要素として、一連のプロセスの序盤にソーシャルプルーフを利用する方法もあります。本書で取り上げる事例の中にも、ソーシャルプルーフの要素を含むものがたくさんあります。
ソーシャルプルーフの種類
- 数の説得力─一日で、または累計で、何人の人々がすでにこのプロダクトを購入したか;このサービスの利用者は何人か;現在の閲覧者は何人か;この説明書をダウンロードしたのは何人か;この動画が再生されたのは合計何時間か。
- 具体性─直近にそのサービスを利用した人物の名前;そのプロダクトがもっとも多く売れる場面。ソーシャルプルーフは、総じて、内容がより具体的(人名、写真、発言の引用)であるほど信頼性が高くなる。
- 他のユーザーからの意見、感想、推薦。
- 格付け、たとえば人気スターの起用、トリップアドバイザーなどの格付けサイトの報告の引用など。
- 公式なアワード、プレスの好意的レビュー。
- ソーシャルメディア―ユーザーにより共有ボタンやいいねボタンがクリックされた延べ数。
- 他のユーザー―すでにそのプロダクトやサービスを利用した重要な顧客のロゴや名前。