創業60周年を迎えた2020年、インテージは11月に4日間にわたるオンラインセミナー「INTAGE FORUM2020」を開催。掲げたテーマは「Reborn」だ。約2年前から代表取締役社長を務める檜垣歩氏は、2020年を「『生活者理解』がキーワードになった年だった」と振り返る。マーケティングリサーチは事業戦略、ひいては経営戦略の入り口から携われることが醍醐味だと語る檜垣氏に、企業ニーズの変化と今後のマーケティングリサーチの有用性についてうかがった。
※本記事は、2021年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』62号に掲載したものです。
「情報は力なり」生活者理解はマーケティングの本質

株式会社インテージ 代表取締役社長 檜垣歩(ひがき・あゆみ)氏
東京大学理学部卒業。カゴメにて飲料の商品開発、マーケティングに従事後、1995年10月社会調査研究所(現・インテージホールディングス)入社。SCI再構築、i-SSP開発、R&D等に従事。2016年4月取締役、2019年4月代表取締役に就任。
――檜垣さんは元々、BtoCメーカーであるカゴメに勤務されていたのですね。どのようなお仕事をされていたのですか?
飲料の商品開発やマーケティングに携わっていました。1980年代終わりから1990年代前半の時期です。当時、野菜ジュースと言えば「トマトベースでセロリ風味で塩味」、トマトジュース自体も二日酔いの時に飲むものと位置づけられていて、ユーザーが狭いうえに健康イメージが強くありませんでした。若い単身者も増えて、野菜不足に悩む人が増えていたことを背景に、より広い層に「飲みやすく野菜不足を補える」商品を提供しました。その後、“体内環境を整える”といった切り口での訴求に変わり、日本人の野菜摂取の在り方を変える存在になったと思います。
私が就職した当時は、まだ“マーケティング”も“ブランド”も現場ではほとんど聞かれない時代でした。それでも、生活者のニーズや潜在的な欲求と、そこにどんな価値を届けるかに向き合った経験は大きかったです。商品とは、スペックだけでなく「生活者にとっての価値」を設計して訴え、生活者の知覚を変えるものなのだと学びました。同時に、生活者の生活を変えて健康増進に貢献し、その先に会社も発展するのが目指す道なのだと実感しましたね。
――その後、1995年からインテージで様々な事業に携わってこられています。マーケティングリサーチの魅力を、どのようにお感じですか?
マーケティングの本質とは何か。それは、顧客の価値創造活動、平たい言葉で言うと「誰かのことを理解して、その人を喜ばせること」と捉えると、顧客理解、ターゲット理解や生活者理解は、本質に関わるエッセンシャルな部分です。リサーチを通じて息長く、本質部分に携わることができるというのはやはり喜びです。
リサーチの役割は2つあると思います。一つは、データやエビデンスに基づいて、意思決定を支援できること。「情報は力なり」ですね。もう一つは、創造性を刺激し、マーケターや経営層に発想や気づきを与えてくれること。そのひらめきを言語化しながら、生活者理解を深めることができます。前者は左脳的、後者は右脳的と言えるかもしれません。マーケティング自体、右脳と左脳の両方の領域を横断して進めていきますが、リサーチにも同じ性質があると思います。
ファクトに基づく生活者理解には異なる立場の方々を束ねる力がある
――確かに、リサーチデータは皆の共通した判断材料になりますね。一方で「右脳的にも役立つ」という機能もたしかにあると思います。
そうですね。生活者を理解するには、やはり客観的なデータ分析だけではわからないインサイトをつかむことが欠かせません。人間を包括的に理解することが、マーケティングリサーチの本質的な役割であり、魅力です。同時に、左脳的にものを考える人と、右脳的にものを考える人の共通言語にもなると思います。
メーカー時代に感じていたことがもう一つあって、それは「ファクトに基づく生活者理解には、異なる立場の人を束ねる力がある」ということです。データに基づく市場観や判断があってはじめて、社内の各部門が同じ方向を向けます。コンシューマーセントリック、生活者中心の立場は、リサーチのコアな役割の一つですが、今日的な意味も大きいと思っています。
たとえば、メーカー企業と小売業、メディアの立場の方々と広告主の立場の方々。最終顧客(生活者)の求めるものであれば、売り手、買い手双方が納得し、合意することができるわけです。今日においてはデータの統合活用で、より粒度高く、個々の最終顧客、個々の生活者の求める(求めるであろう)ものに基づいた最適化により、売り手、買い手双方に利益をもたらすこともできるはずです。
近江商人の三方よし、は「売り手よし、買い手よし、世間よし」を意味しますが、データ活用時代のリサーチ会社は「データドリブン三方よし」の提供者になっていくのではないでしょうか。生活者のニーズに基づいた、すなわち世間よしに基づいた、売り手よし、買い手よし。高い粒度で、個々の生活者のニーズに対応した、売り手よし、買い手よしの世界。リサーチの業容変革として、「データドリブン三方よし」の世界を目指していきたいと思います。
――『MarkeZine』も2006年にスタートしたころは、それこそ左脳的なデジタル活用の手法にフォーカスしがちでしたが、昨今ではデータが与えるひらめきや企画への示唆など右脳的な領域にも視野を広げてきました。檜垣さんからご覧になって、今のマーケティングリサーチ領域では、右脳と左脳のバランスが取られていると思いますか?
その企業によるでしょうが、やはり“リサーチ”という言葉のイメージから、多少のバイアスはありますね。調査=客観的な判断材料、という印象がありますから、業界を見渡しても、意思決定支援の役割のほうが強く打ち出されていると思います。
これは“データ”にも同じことがいえます。データ活用やデータドリブンな世界を目指すと掲げると、KPIが明確なだけに数字ばかりを追求し、本来のゴールが不在になることが往々にしてありますね。そんな状況には注意しないといけないと思います。成果とは何か。成果が上がるということは、結局のところ、その企業、そのブランドにとっての、お客様に支持され、愛されるということですよね。最終顧客が生活者の場合は、ブランドユーザーや生活者に支持され、愛されるということですね。そのための対象理解と価値創造を忘れてはならないと思います。
会員登録無料すると、続きをお読みいただけます
新規会員登録無料のご案内
- ・全ての過去記事が閲覧できます
※プレミアム記事(有料)は除く - ・会員限定メルマガを受信できます
- ・翔泳社の本が買える!500円分のポイントをプレゼント
この記事は参考になりましたか?
- マーケティングを経営ごとに 識者のInsight連載記事一覧
- この記事の著者
-
高島 知子(タカシマ トモコ)
フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
