DX時代により求められる「データのチカラ」
――2020年11月に行われた「INTAGE FORUM2020」では、檜垣さんの「インテージの創業には科学的なマーケティングの器でありたいとの志があった」との言葉が印象的でした。日本では、マーケティングが広告宣伝という部分的な領域で発展し、かつテレビCMを中心に“効果の数値化が難しい”とされてきた経緯もあって、今も科学的かと言われると発展途上なところがあると思います。創業時の志について、檜垣さんはどう受け止めていらっしゃいますか。
先ほど、リサーチから発想を得て、生活者のインサイトをつかむことも大事だとお話ししましたが、とはいえインテージは元々大規模な定量調査に強みがある会社で、それは創業期のビジネスと関係します。60年前にインテージが生まれた背景には、テレビCMの存在感の高まりとともに、市場の状況を知りたい、市場規模やシェアなどを知りたいという、消費財メーカー企業のニーズが高まったことがあります。そこで継続的な大型定量調査(パネル調査)が始まった、そこに創業の志があります。創業者は「センサス(全数)データはサンプリングデータより価値が高い」と言っていたそうですが、情報価値創造へのこだわりは、会社のDNAとして受け継がれていると感じます。
60年たって、まさに今データの時代を迎えているわけです。たとえば、全国スマートテレビビッグデータを基にした、エリアオプティマイザー。データ提供にとどまらず、最適化サービスは今後拡大していくと思います。
また、「SRI+(全国小売店パネル調査)」は世界に類を見ない個店推計方式を採用して、この1月正式にリリースしました。これは、将来長期間の精度保持と、DX時代のデータ統合活用力の実現を図ったものです。こういった「データのチカラ」をもっていることは、「科学的マーケティングの器でありたい」という創業の志が今につながっている姿と思います。

時代の変化にともない進化するリサーチのトレンド
――なるほど。25年にわたりマーケティングリサーチ業界にいらっしゃる視点から、トレンドが大きく変化したタイミングについてうかがえますか?
10年くらいごとに、フェーズが変わっていると思います。まず、私がインテージに入社した後の1990年代後半は、POSデータをはじめとするビジネスデータの活用が模索され始め、CRMの概念が注目されたり、データマイニングという言葉も聞かれたりするようになりました。当時、インテージでは日本IBMさんと組み、とある通販企業のデータ分析支援をしたりしていました。いわゆる顧客に尋ねるリサーチ以外でも、エンドユーザーの状況がわかってダイレクトに施策が打てるのは、新しいフェーズに入ったなと実感していました。
そのころから出始めていましたが、2000年代半ばにはすっかりインターネットリサーチが主流になりました。ネットリサーチは「早い・安い」ことが利点だと言われましたが、それ以外にクライアント企業の担当部門が営業や商品開発などに広がり、すそ野が拡大したことが大きかったです。意思決定サイクルも早まり、それまでの重厚長大なリサーチとは全然違う価値を実現していきました。
生活者にネットが浸透した次に突入したフェーズが、スマートフォンとSNSが一般化した時代です。この5年ほどでスマホが浸透し、本当に朝から晩まで皆がネットに接続するようになって、リアルタイムでのデータ取得が可能になりました。施策自体も多様化しているので、データ取得に価値があるというより、膨大な情報量からどのように示唆を得るか、その視点がより大事になっていると思います。