パーク内の行動データから「Who」を読み解く
山上:過ごし方の提案として、パーク内の行動履歴を活用されているとのことですが、そこから新たに見えた顧客像などはありましたか?

JTB Web販売部 戦略担当課長 Data Science Central 副統括 山上亜紀氏
豊島:これまでもお客様によって様々な楽しみ方があることは感覚的にはわかっていましたが、どれくらいのパターンがあり、再来場時に同じ楽しみ方をするかどうかが明確にはわかっていませんでした。そのため、蓄積してきた行動履歴のデータから、ゲストをクラスタリングしてみました。
その結果、たとえばそのひとつである「絶叫系が好き」なカテゴリーに属する方々は、次にパークを訪れたときも同じく絶叫系に乗りがちなことや、一方別のカテゴリーでは、次訪れたときに前回とまったく違う楽しみ方をする傾向があることから、さらなるゲスト満足度の向上には来場後のコミュニケーションを変えないといけないなど、様々な発見が出てきました。
山上:そうした気づきがあったとき、打ち手としてのコミュニケーションはどう変えているかご紹介いただけますか?
豊島:来場後から再来場までのインターバル間のコミュニケーションを考える際に、クラスタリングでの結果を参考に、絶叫系が好きなのであればそれを訴求するメッセージにするなど、1to1に近いコミュニケーションを実現しようとしています。
山上:顧客の見立てとしてのWhoのカテゴリーは、何種類くらいあるのですか。
豊島:その時々で変わってきますね。各シーズンによって我々が推し出せる楽しみ方があり、それをコミュニケーションに活かす際に、好きなキャラクター軸なのか、リピーター軸なのか、どの軸で分析すればよいのかは、その都度戦略を立てています。
福田:JTBでも購買文脈から顧客を解釈し、「出張女子」「東京貴族」「雨・地図に弱い女性グループ」など、現在では300近いセグメントを探索しました。そのセグメント別にコミュニケーション施策に落とし込むということを、体制づくりから取り組んできています。
実際、いざ施策につなげようとしたときに現行業務とぶつかって、リソースが足りなかったり、うまく運用できなかったりしたことはありませんでしたか?
豊島:施策展開の流れはスムーズでした。施策を実行する部門と我々のデータ部門が協議しながらDMPの構築、MAの導入を行い、実際のコミュニケーションへつなげていきましたので、そうした障壁はなかったですね。
とはいえ、システム導入時に経営層を説得する過程では苦労もありました。そんなときは、徹底してテクノロジードリブンではなくユーザーエクスペリエンスドリブンで話をするようにし、導入によってゲストにどんな良い体験が提供できるかを伝えるように意識していました。
梅原:これについては、先にお話したように、ゲストの声を大事にするカルチャーが社内に根付いていることが大きいのだと思います。
インフルエンサーの活用で「逆ファネル」にも対応
――近年はコミュニケーションチャネルも多様化していますが、中でもいま注目しているチャネルはありますか?
福田:以前お話を聞いたときに、「逆ファネル」への対応をされているとおっしゃっていましたが。
梅原:「逆ファネル」といえるかは微妙ですが、最近はインフルエンサーを活用したエンゲージメントと理解の強化に力を入れています。
テレビCMをはじめとした認知を取っていくメディアは必要だと考えているのですが、それ以上に、具体的にどのような体験ができるのかを理解してもらうことが必要だと思っています。
特に遠方であるほど、パークについてよくご存じないお客様がいらっしゃったり、偏ったイメージを持たれていたりする傾向があります。そこでInstagramでインフルエンサーを活用して、パークで楽しんでいる具体的な様子やホテルでの宿泊イメージを投稿してもらい、旅行でパークに行くことを想起させる施策を行っています。
梅原:すぐに効果が出るものだとは思っていませんが、リーチ数やエンゲージメントは当初の想定より高い数値が出ていました。いつか旅行に行きたいと思ったときのエボークドセット(消費者の購入検討時に選択肢となる対象)に入れてもらえればとの思いで取り組んでいます。