大手企業のD2C参入は可能か?
では主に実店舗でビジネスを行ってきた既存大手企業がD2Cに参入・転換していくことは可能なのだろうか。三嶋氏は「経営手法も含めた刷新が必要で、簡単ではないと思う」としながらも、どんな転換が必要になるかを整理した。
まず必要な店舗数が減るため、既存店舗や人材の一部は不良資産となり、それらに対する経営判断に向き合うことになる。また、従来は客数や単価、粗利などをKPIとしてきたところを、LTVやサービスの解約などに変更する必要が生じる。それにともない、人事評価の方法も刷新していくことが求められる。
また、D2Cブランドに欠かせない世界観づくりを行うにあたっては、ターゲットとなる若年世代との年齢のギャップが少ないスタートアップ企業が有利になる場合も。加えてブランドのグロース手法や集客についても、テック企業に近い方法を取り入れることになり、エンジニアの採用や社内のデジタルに関する知識の底上げが鍵となる。
SaaSとの掛け合わせで「D2Cの先」へ
最後に今後の展望として、FABRIC TOKYOが考える“D2Cのその先”が明かされた。
「リテール(小売)がサービス化する“RaaS(Retail as a Service)”に取り組んでいます。具体的には、D2CにサブスクリプションサービスのSaaSを掛け合わせ、モノを売る会社とソフトウェアの会社を融合させたような存在にしていきたいと考えています」(三嶋氏)
たとえばAppleは、MacBookやiPhoneといった物を販売するのと合わせて、Apple MusicやメンテナンスのAppleCare、App Storeのアプリといった日々接するタッチポイントとなるソフトウェアを用意している。また、数十万円のフィットネスバイクを販売するアメリカのD2C企業「PELOTON」は、フィットネスのライブレッスンが受けられる月額のサブスクリプションサービスをセットで販売しており、コロナ禍で伸びているという。
「顧客との継続的なタッチポイントを作りながら、モノも売っていくということを、FABRIC TOKYOはアパレル小売業界でやっていこうとしています。そうすると、従来はゴールだった購入がスタートへと変わり、顧客に寄り添い続けることが大事になってきます」(三嶋氏)

顧客が持つアパレルに関する課題としては、着なくなった服を廃棄するのがもったいない、破けてしまったから修理をしたい、今日は何を着たらよいのかわからない、クリーニングに出すのが面倒くさい、かさばって保管しづらいなど、利用シーンの中に多く存在する。 三嶋氏は「そうした課題をRaaSによって解決し、LTVや顧客体験、カスタマーサクセスをさらに伸ばしていくことが目標です」と述べ、セッションを締めくくった。