体型だけでなく、価値観や生活にもフィットするオーダースーツ
FABRIC TOKYOは、オーダーメイドのビジネスウェアを展開するD2Cブランドだ。「敷居が高そう」「既成品のスーツと比べてお金がかかるのでは」「購入に時間がかかり大変そう」といった、オーダースーツに対するネガティブなイメージをテクノロジーの力で解決し、気軽に、適正な価格で、いつでも買えることを実現している。
「一度実店舗で計測していただければ、『Smart Order』という計測したサイズをクラウド上に保存できるサービスにより、いつでもどこでもオンラインでオーダーメイドのビジネスウェアを購入できます。ブランドコンセプトの『Fit Your Life』は、体型に合うだけではなく、その人の価値観やライフスタイルにもフィットするということを表現しています」(三嶋氏)
顧客体験の流れは次の通りだ。まずSNSやサイトといったオンラインでブランドを知ってもらい、そこから採寸を行う実店舗へと来店を促す。実店舗は関東、関西、名古屋に14店舗を構えているが、基本的に採寸のみを行う場であり、オーダーはオンラインで受け付ける。
このスタイルにより、同社は従来型のアパレル企業と比べて高い収益性を維持している。デジタルマーケティングで集客するため、賃料の高い駅前などに目立つ店舗を構えて顧客を呼び込む必要はない。販売もオンラインで行うことで、店舗面積も抑えられる。三嶋氏によると、売上高を賃料で割った倍率は30倍と、競合他社の10倍前後と比べてはるかに高いという。
苦境に立つ小売業。足りないのは「手段」ではない
コロナ禍でますますECの需要が高まり、これまでは実店舗をメインとした小売業界でも、EC比率の向上や社内業務へのITツール導入、ビッグデータ活用といった動きが加速している。しかしこれらはどれも、HOW(手段)の話であり、三嶋氏はもっと違った点に着目している。
「コロナ禍で小売業全体が苦境に立たされたことによって、人々の趣味や価値観・ライフスタイルが多様化し、顧客ニーズが複雑になっています。ここで大切なのは、顧客の思考や価値観、時代の変化などを常にキャッチアップし続けること、従来の既成概念や組織の力学を捨て、顧客視点で考える時代になったという認識を持つことではないでしょうか。自社と顧客との関係性を見直し、作り替えていくという前提に立った上で、デジタル施策のHOW(手段)の話に移るべきだと思います」(三嶋氏)
そのためにはまず、WHO(顧客ニーズ)、WHAT(提供価値)を見直していくことが必要だ。また、商品が世に出るまで時間のかかるメーカーや小売業においては、強烈な思い、社会価値といったWHY(ヴィジョン)を持つことも欠かせない。三嶋氏は、「コロナ禍で苦境を脱しきれない小売店は、WHY(ヴィジョン)のアップデートを怠ってきたことも要因の一つではないか」と指摘する。
このように、ITに関わるHOW(手段)だけではなく、WHY(ヴィジョン)に始まり、WHO(顧客ニーズ)やWHAT(提供価値)を含めた総合的な変革として捉え、自社のみならずサプライチェーン全体で変革を目指していくことを、三嶋氏はリテール・デジタルトランスフォーメーションと呼称した。