なぜCDPなのか――法規制だけではない背景
CDPの「INTEGRAL-CORE」や、ETLの「HARBEST」といった、デジタルマーケティングのテクノロジーを提供する企業EVERRISE。システムエンジニアとしてスタートし、20年以上のキャリアを持つ同社取締役の伊藤孝氏は、ここ7~8年はソリューション営業やテクノロジーアドバイザーとして、年間数百社の企業の悩み解決を図っているという。
CDP(顧客データ統合基盤構築システム、Customer Data Platform)が必要とされる背景として、伊藤氏は次の4つの要因を挙げる。
- DX推進意識の高まり
- マーケティング手法の変化
- システムの複雑化とデータのサイロ化
- 法規制など個人情報保護に対する意識の高まり
特に、2)マーケティング手法の変化では、人口減少もあって市場は飽和状態であり、新規顧客の獲得が難しくなっている現状がある。その一方で、マーケティングオートメーションなどOne to Oneのコミュニケーションを支援するツールが次々と登場しており、「一方通行でデータをプッシュしてしまっている」問題があるという。
3)システムの複雑化とデータのサイロ化では、これらのさまざまなツールを導入した結果、ツールごとにデータがバラバラになっている(データのサイロ化)と伊藤氏は指摘する。
そして4)の個人情報保護意識の高まりは、欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規制)など海外で個人情報に関連する法律が厳格化するのに加え、日本でも個人情報保護法改正法が成立したことが挙げられる。
また、ブラウザベンダーのサードパーティクッキー廃止の動きも紹介しながら、「企業間でのデータ交換を含め、データを許諾なしに買ったりもらったりすることが難しくなっている。顧客から承諾を得たファーストパーティデータを集め、活用することが求められている」と伊藤氏は言う。
また、企業が顧客情報を格納しても、データの持ち主はあくまでも顧客本人であるという「データ主体の権利(DSR:Data Subject Rights)」への対応も進めなければならないとした。
CDPはこれらの問題の解決につながる技術として期待されているのだ。
顧客単位でデータを統合できるCDP、その用途は?
CDPの可能性やメリットを語る前に、伊藤氏はまずCDPとは何かについて説明した。
営業やマーケティング、カスタマーサポートや店舗などがさまざまなツールやシステムを導入し、個別に連携させてメールやプッシュ通知、Web接客などのアクションや分析を行なっている状態を「CDPを導入する前」とすると、CDPの導入により部署共通の単一の顧客データ基盤レイヤーを設けることができる、と伊藤氏は説明する。
CDPの用途は様々だ。伊藤氏が最初に挙げたのは、正しい顧客データの分析や可視化を可能にするというものだ。「企業内に散らばる顧客データを“シングル・カスタマー・ビュー”として1ヵ所にまとめ、本当の顧客像を描くことができます」(伊藤氏)
最も多い用途は、統合データを元にセグメント化し、メールやプッシュ配信を行うことだ。Webサイトやアプリなどのオンライン、店舗などのオフラインのデータを顧客単位で統合することで、興味関心が正確にわかり、コミュニケーションの数や内容の管理もできる。これなら、一方通行のコミュニケーションを防ぐことができそうだ。
CDPの代表的な4つの機能
伊藤氏は次にCDPの構成と機能について説明した。機能はたくさんあるが、代表的な機能として、大きく4つあるという。
ファイルやデータを貯める「Data Lake」、サイト内の行動やアプリ行動、IoT機器のビーコンデータなど「行動ログの計測」、Data Lakeや行動ログの分析と活用のための「DWH」または「DataMart」、欠損したり暗号化されているような場合でも活用できるようデータの加工や入出力のための「ETL」だ。
実は、これらの機能は「Google BigQuery」「Google Analytics」など、Google Cloud Platform(GCP)やAmazon Web Services(AWS)などのクラウドサービスでも、単品で揃えることができる。では、あえてCDP製品を導入するメリットは何か?
CDPを導入する4つのメリット
CDPを導入するメリットとして、伊藤氏は以下の4つを紹介した。
- データの名寄せや統合処理
- 事前の集計処理
- セグメント作成機能
- 外部ツール、外部システムとの接続
1)データの名寄せや統合処理は、顧客データ管理で多くの企業が課題に感じている顧客マスターの統合となる。ECサイトや店舗会員が別々にマスターを構築しているなど、「数十個も顧客マスターがあるという企業もよくある」と伊藤氏。CDPには名寄せやID統合を行いやすくする機能が用意されており、これらを使うことで“シングル・カスタマー・ビュー”を得られる。
2)事前の集計処理は、セッション構築機能だ。Web行動ログやアプリ内行動ログではなく、サイトに来てから離脱するまでといった一連の行動セッションとしてまとめることができる。
3)セグメント作成機能は、SQLを書くことなくセグメントを作成したり、分析したりできるものだ。「SQLでしか表現できないものもあるが、ちょっとフィルタリングして絞り込みたいときに便利」と伊藤氏。
4)外部ツールや外部システムとの接続について、クラウドサービスとツールやシステムを接続する場合は開発を伴うが、CDPはコネクタにより簡単に外部と接続できる。
小売、EC+小売、メーカー、不動産……業界別CDP活用事例
気になるCDPの事例はどのようなものがあるのだろう? 伊藤氏は、「小売」、「EC+小売」、「メーカー」、「不動産」の4種類を紹介した。
DWHからCDPへ(小売)
小売の事例は、CDP導入によりコストの削減、業務効率化、データの活用領域を拡大するというもの。
それまでは、ID-POSや会員カードなどのデータなどをDWHに格納し、中間サーバーを経て分析やDM配信などを行なっていたが、DWHの老朽化にともない維持費がかさみ、専門の業者しか扱うことができないという問題を抱えていた。
CDPを導入することで、維持費を削減した。また、CDPは容易に使えるので、セキュリティポリシーに基づき扱うことができる人は簡単に操作できるように。さらには、新しいデータ軸の追加も簡単なので、活用領域が広がったという。
ECと店舗の顧客ID統合(EC+小売)
ECも展開する小売業では、CDPを導入して店舗とECでの顧客IDを統合(1ID化)した。具体的には、ECシステムとPOS会員システムの会員データを1ID化し、マーケティングオートメーション(MA)との間にCDPを入れ、メール、LINE、プッシュ通知などのツールと接続するという形だ。
「CDP導入前は店舗側ではデジタルマーケティングツールを使っていなかった。店舗とECとの会員データを1ID化することで対象となるデータの母数が増える」と伊藤氏。
また、会員データを直接MAツールに入れるよりも、データを整理してから各ツールにつなぐほうがコストも抑えられるという。
顧客の態度変容などを把握し、施策へ(メーカー)
消費財メーカーが持てる顧客データは、商流の関係からあまり多くはない。しかし、年に数回打つ大型キャンペーンやプロモーションを通じて顧客情報を取得している。
売り上げや認知への効果はある程度測定できるものの、どのように意識が変わったのか、購買行動はどう変わったのか、Webサイトの回遊パターンに変化はあるのかといったことは測定できずにいた。そこでCDPを導入し、プロモーションの管理を改善することに。結果、プロモーションの分析を次に活かしたり、継続的にオンライン広告で顧客とコミュニケーションを取ったり、セグメント作成をしたりできるようになったという。
デジタルとアナログの顧客データを集約(不動産)
不動産の事例は、新築不動産を販売するために購買ファネル分析や、コミュニケーションの改善を目的としたCDP導入だ。
新築不動産を購入する顧客の多くは、事前の情報収集で意思決定はかなり進んでおり、さらに細かい情報がほしくなれば資料請求、展示場への来店と進む。つまり、認知と興味関心はオンライン、コンバージョンはオフラインであることが多い。
課題は、データが利用しにくいという点だ。各フェーズでデジタルのデータを収集する一方で、契約書など紙の作業が入ってくるためだ。そこで、CDPに情報を集約することで「フェーズごとのデータを、お客様に紐付けて見られるようにすることで商談までの流れにあるボトルネックを分析でき、改善につなげられている」という。
ズバリ、導入のポイントは?
CDPが必要になる背景、CDPの仕組み、メリットと事例まで説明した後、伊藤氏は導入に当たって注意すべきポイントを紹介した。伊藤氏によると、代表的な失敗として次の3つがあるという。
- データを集めてみたが活用方法がわからない
- データを可視化するのみで止まってしまう
- データ統合のシステムの費用が高すぎる
このような失敗を招いている原因を、「CDPという言葉が一人歩きしてしまい、イメージありきで目的が不明確なまま製品導入プロジェクトとしてスタートしてしまったケースが非常に多い」と伊藤氏は分析する。
実際に、目標が明確ではないために、無駄に多機能・高機能の製品を選択しているケースも多いという。そこで、「こういった施策をして、こういった効果を狙いたいと具体的な目標を決めてスタートすべき」と伊藤氏は見解を示す。
「データ統合も1つのプロジェクト。中長期的なゴールと、ステップごとのゴールを設定しておく必要があります」(伊藤氏)。
CDPを導入する目的やタイミングの例として、「システムコスト削減・柔軟な環境を作りたい」「顧客エンゲージメント向上と売上向上を実現したい」「顧客との直接コミュニケーションが出来る環境を作りたい」「プロモーションの計測・評価ができる環境を作りたい」などが挙げられるという。
実際にCDP製品を選定する際の注意点として、「やりたいことに向けた目標を最低限クリアできる安価なものを選んだ方がいい」と伊藤氏。機能が重複するツールが何種類も入っているというケースをたくさん見てきたという伊藤氏は、「スモールスタートの方がトータルのコストが安くなる」と助言した。
最後に伊藤氏は「EVERRISEはプロダクトの提供、統合データ統合基盤の構築などの大型プロジェクトのコンサルティングから実装、そして運用後のサポートまで広く手掛けています。知見やノウハウもあるので、お困りの際は声をかけていただければ」と語り、講演を終えた。
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