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マーケティングの本質を探る

ユーザーの無意識にブランドを入り込ませるには?カギは独自性とモーメント


Google Nestはどのように(再)定義できるか

 ここからは筆者ならどうするかという観点で、カテゴリー再定義の例を紹介する。取り上げるのはGoogle Nestである。Google Nestは「スマートスピーカー」として販売された、要はスピーカーである。この商品でカテゴリーの期待をどのようにリフレッシュすることができるのか、またどんな新しい期待を持ってもらうことができるのか考えてみたい。なお以下は筆者個人の見解であることを予めお断りしておく。

 そもそもGoogle(検索カテゴリー)に対してユーザーは、「疑問に対してシンプルな答えをくれる」ことを期待している。Google Nestにはなんでも会話で聞けるAIであるGoogle Assistantが内蔵されているので、情報探索行動を「シンプルな答えを探すこと」だけではなく、「取るに足らない様々な情報にも触れて学んだり楽しんだりすること」と定義しなおすことができる。デバイスもそれに合わせて、「(家の中で)様々な情報を学ばせてくれ、家事も助けてくれるヘルパーのような」デバイスと(再)定義し、「ブランドの人となり」も“Google先生”ではなく、もっとカジュアルに何でも聞いたりお願いしたりできる、自分に寄り添ってくれる存在として売り出すことができる。もし可能であれば技術革新も加えて、使っている人に合わせて進化する(どんどん近い存在になる)デバイスにすることもできそうだ。つまり、スピーカーというカテゴリーは、プロダクトを最も輝かせる場所ではないのかもしれない。スピーカーの年間市場流通量や市場浸透率を考えても、スピーカーとして打ち出すことでは、大きなビジネスを求めることは難しいかもしれない。

 そこで、抜本的に考えるのであれば、スピーカーではなく、大きさをもっと小さくし、声が聞こえるだけのものにしてコストを大幅にカット、フリーミアムなファイナンシャルモデルを持っているGoogleとしては、無料に近い形で配布し、新たなユーザー獲得や新たな市場創造にフォーカスすることなどを検討してもよさそうだ。

 今のままの形だとしても、キャンペーンとして、社会的背景を鑑みた露出の最大化を図るべく、「家事への助けは男性でも女性でもない」というようなPR活動などを含めて、“Googleはあなたのそばで一緒に学んだり、家事を助けてくれるヘルパー(もしくはそれに近しい存在)”といったアイデアも作れるし、そこから“家の中を音楽で満たして、あなたのそばでその時の気持ちに寄り添ってくれる”といったベネフィットに派生させ、音楽に特化したサブブランドをデバイスと共にローンチするなどの展開なども考えられる。これはブランドの方向性にも関わるが、先ほど説明したロードマップとしてのプランを考えることにつながる。

 また、Google Nestは検討する前から検討/購買までのサイクルが長いカテゴリーと推測されるので、消費者の無意識に入り込むために、効率的に長い期間、ユーザーとの接触を多角的に図るべく、パートナーシップを活用することもできる。たとえば、コンビニやスーパーマーケット(ブランドの価値を「楽しませてくれるもの」と再定義するのであれば、テーマパークや観光地)など、日々の生活で取るに足らない様々な疑問があふれていると想起される場所に設置してもらい、訪れた人が気軽に質問するような形で利用してもらう事もできる。はたまた、家電メーカーや住宅メーカー、家具・インテリアのメーカー、販売店など、家での生活に関係する企業との販売パートナーシップ契約にフォーカスしてもよい。あるいは、不動産会社とのパートナーシップで、マンションの各部屋にGoogle Nestを設置しておき、毎月の家賃に数百円の上乗せで利用できるプランを作ってもよい。第一回で述べたように、検討する前から購買までが長いからこそ、このようなファイナンシャル上も長期にわたるパートナーシップは、効果的になる可能性を秘めている。

 カテゴリーをスピーカーにするのはよいとしても、ブランドがスピーカーと認識されてしまうと、店頭ではどうしてもスピーカー売り場に置かれることになる。しかし「取るに足らない様々な情報を一緒に学ぶ存在」であれば、家でインターネットにつながったヘルパーとして、携帯キャリアやインターネットプロバイダーなどの売り場に置いてもらうことも可能になるかもしれない。ちなみにこれはファブリーズを初めて日本でローンチする時に、芳香剤の棚には置かず、洗濯洗剤の棚に置いた戦略に似ている。カテゴリーの再定義は、消費者が購買するその瞬間まで、統一感をもって表現する必要があるのだ

まとめ

 カテゴリーの再定義の方針を決めたのちは、ユーザーや消費者の無意識に入り込むためのルートづくりを行う必要がある。またそれは、購買サイクルの長さに応じてアプローチが変わる場合が多い。ブランド再定義のロードマップを描いて、必要なアクションを整理しておくことが必要だ。また、作ったアイデアは消費者テストを行うことで、より強いアイデアにすることができる。

アドビ 里村氏による連載「マーケティングの本質を探る」の過去記事はこちらから
【第1回】消費者の無意識に入り込み、行動を変えたブランドが市場を制する
【第2回】消費者の無意識に残り続け、第一想起をとれるブランドが大切にしている「カテゴリー理解」とは
【第3回】マーケティングの本質は市場創造、そのために欠かせないカテゴリーの再定義とは

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この記事の著者

里村 明洋(サトムラ アキヒロ)

アドビ株式会社マーケティング本部 常務執行役員/シニアディレクター。兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社。営業からマーケティングまでP&Gとしては異色のキャリアを築き、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Googleに転...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/07/15 10:00 https://markezine.jp/article/detail/35797

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