ソーシャルメディア上で炎上が広がるメカニズム
つぎに紹介するのは東京大学鳥海不二夫教授(執筆時は准教授)による「バースト現象における拡散の定量分析―ツイッターデモはどう広がったか―(PDF)」です。ソーシャルメディア上のバーストや炎上は学実両方において非常に関心の高いテーマであり、今回の特集号で是非光を当てたかったトピックです。
この論文では法改正案を巡るツイッターデモを対象としてバースト現象の詳細分析を行っています。たとえば自社が炎上してしまったとき、ネガティブな声が偏った少数の意見であったのが、それとも世論だったのかは企業としては気になるところだと思います。2%のアカウントによって50%のツイートが拡散されていたというこの論文の分析結果は、興味深い発見事項といえます。
また、大規模な拡散が発生した際に、一つのコミュニティでのみ起きていたのか、複数の多様なコミュニティまで広がっていたのか、ということも企業担当者としては気になるでしょう。この研究の結果では、ツイートを行ったアカウントは多様なコミュニティに所属しており、対象となった拡散は多様な人々によって支持されていたことが明らかになっています。
著者は計算社会科学の研究者であり、本論文の参考文献には人工知能の文献が並びます。ソーシャルメディアはマーケティングのみならず人工知能の領域でも大いに研究されているトピックであり、この領域で一般的に使用される拡散の偏りの推定および評価やコミュニティの抽出方法は、マーケティングの研究者や実務家にとっても有益でしょう。

役に立つ製品レビューの特徴とは
これまで紹介したツイッター上の情報伝播や拡散はソーシャルメディアの主要な研究領域ですが、製品評価情報もまた多くの研究者の関心を集める重要なテーマです。つぎに紹介する明治学院大学の齊藤嘉一教授による「レビュー有用性の影響要因―質的・量的レビュー(PDF)」は、この重要なテーマを扱っています。
現在、口コミサイトやオンラインショップにカスタマーレビューが掲載されることは一般的な慣行になっています。企業は製品購入後の顧客にレビュー投稿を促し、場合によってはインセンティブが付与されることもあります。本論文のテーマはこのカスタマーレビューの有用性です。
たとえばAmazonで「カスタマーレビュー」として製品評価情報があり、個々のレビューには「役に立った」ボタンが配置されています。ではそのようなレビューが「役に立った」と評価されるのでしょうか。この論文はレビュー有用性、すなわち、レビューが獲得するhelpfulの数、あるいは割合がどのようなレビュー特性、発信者特性、製品特性によって影響されるかを検討しています。
なお、論文タイトルにあるふたつめの「レビュー」とは、製品評価情報ではなく先行研究レビューを指します。先行研究レビューとは簡単に説明すると特定のテーマに関する既に刊行された論文を徹底的に収集・分析し、その知見をまとめることです。学術論文の先行研究レビューの部分や、レビュー自体をその使命とするレビュー論文は、特定のテーマの学術研究の潮流を把握する上で非常に有益です。