充満する3つのマイナスリスク
現在進行しているポストCookie論は、3つのマイナスリスクを見据えていない。
1、消費者と司法当局による法規制強化と巨額の制裁金
2019年7月、米国連邦取引委員会(FTC)はFacebookに対して約5,000億円もの制裁金を科した。その背景は2012年に遡り「Facebookがユーザープライバシーの侵害をしている」申し立てに対して、Facebookは「欺瞞的な開示と設定を繰り返していた」という数々の忠告が存在する。その後も新たな対策による不誠実な対応が重なり、その「とどめの一撃」が2018年に発覚した「Cambridge Analytica」社への8,700万人に上るユーザーデータの流出(共有)がこの制裁金に至った。
同様にGoogleも過去に度重なる制裁を世界中で受けている。2017年〜2020年の間だけでも、制裁金の単純合計が96億ドル(当時の為替レートで、約1兆円超)を計上している。両社への巨額な制裁金の累計が増える一方なのは、データ主体の消費者に対する向き合う体質が「甘い」様子を表している。
2、Google・Facebookにおける事業ユニットの解体の可能性
上記2社は、広告単一事業の規模が巨大で、明らかに競合を寄せ付けない規模に成長した。
2020年12月、米国FTCはFacebookに対して新たな反トラスト法(独占禁止法)違反訴訟を発表。2021年2月には日本の公正取引委員会も、独占禁止法に反する行為・競争政策上の問題行為を指摘した。既にEUではこの状況の4〜5年先が進行している。
プライバシーに関する消費者保護と独占禁止法の規制は、時に矛盾を生むことがある。たとえば、プライバシーに関する要件の増加について「制裁金」が課せられ、その度に「代替案」を繰り返すだけでは、Google・Facebookの巨大企業側がさらに参入障壁高い高額のソリューションを提示し、むしろ彼らの利益を保護するビジネスモデルを野放しにする可能性がある。現在のポストCookie論とは、まんまとこのループの中にある議論なのだ。このループを止めるには、「解体」という行政指導が起こるリスクを、両社は当然懸念・自覚している。
3、トラッキングという広告手法からの離脱
脱「覗き見」ターゲティングの先駆者であるAppleは、2017年頃からターゲティング広告に大幅な制限(基本はダメ)の姿勢を発表している。2020年6月に発表したIDFA(デバイス識別子)の制限強化もその延長である。
Facebookは、このAppleのIDFAの変更発表に対して「現行のパブリッシャーやスモールビジネスのビジネスが潰れる」「プライバシーを守りながらもターゲティング広告が可能である」と主張する意見広告を出稿。The Wall Street Journal(WSJ)やThe New York Times(NYT)などの大手メディアに巨額の広告費を投じている。
GoogleもNews Corp(傘下にFox NewsやWSJ)と交渉し、これまで検索画面上に無料で登場させてたニュース使用料について、複数年に及ぶ支払い契約を発表した。両社のこれらの動きはターゲティング広告の収益化に賛成するパブリッシャーの同調意見を育成させるために広告費として貢ぎ、パブリッシャーの紙面を通して状況を知る市民への経済効果(賛同)を期待している。
マーケティング事業主は、単なるターゲティング広告への対応策程度ではなく、自社事業がこれらの内包する充満リスクとともに沈まないような離脱を考えることが急務だ。外出自粛による特需があった前出The Trade Deskをはじめとしたアドテク上場企業の価値は、2021年初の最高値より約30%も下落しているのは、このリスクの延長である(2021年3月8日時点)。
