デジタルは経営の「救済者」
コロナ禍において、デジタルを活用した顧客とのつながりが不可欠になり、また企業の対応の遅れが顕在化した。これは世界中のビジネスにおける課題となっている。
こうした状況への危機感は、多くの死者を出しながらも、ワクチン接種で経済、社会生活の復活を遂げている米国社会において特に顕著だ。日本の企業と社会には足りていない、優れた実行力とチャレンジ精神で成功事例を生み出している。
大手化粧品小売業「Sephora(セフォラ)」のCTOであるスリー・スリーダララジ氏は、テクノロジーによって事業変革をよりスピーディーにサポートする立場から、本サミットのセッション内で次のように語った。
「デジタルチャネルはもはや“あったら良いもの”ではなくなっている」
店舗運営が制限され、従業員も「Work From Home」が徹底される中、ビジネスをアクティベートし続けるためにデジタルは不可欠だという。
また今回のキーノートセッションにおいても、「Pfizer(ファイザー)」のCEOであるアルバート・ブーラ氏が「デジタルは、コロナワクチン開発においてもスピードアップに寄与する『Enabler(エネーブラー、救済者)』だ」と表現。まさに経営の中心にデジタルが存在し、それがコロナ禍という厳しい環境においても、商品開発を起点とした「ビジネスを止めない仕組み」に寄与しているのだ。
顧客体験の向上には、優れた従業員体験が不可欠
このような環境下で、まず読者の皆様が考えることは、おそらく「売上につながるデジタル推進」「お客様とつながり続けるために不可欠なデジタルタッチポイントの構築」といった顧客体験(CX)におけるデジタル化だと思う。もちろんこれが一番大切であることに変わりない。コロナ禍において、デジタルへと先にシフトしたのは企業ではなく、顧客である。
しかし、デジタルを活用したCXの実現に不可欠なこととして見逃されがちなのが、組織・社員のデジタル体験価値の向上だ。筆者はこれを「EX(Employee Experience)」のデジタル化と呼んでいる。EXの推進を後回しにする企業は、真の顧客中心主義企業とは言えないだろう。
デジタルがもたらす便益と価値を享受し、企業の先を行く顧客。彼らに追いつき、デジタルを企業経営の「救済者」とするには、EXとCXの融合を進めなくてはいけない。この体験の融合、二乗、相乗効果こそがDX(Digital Transformation)なのだ。
デジタルを武器にできた小売業やメーカーは、顧客とのつながりから得られた知見を基にPDCAの高速化も可能となる。また、デジタル体験で先を行く顧客に追いつくことができた組織では、従業員が様々なタッチポイントでデジタルを活用している。つまり従業員ら自身が、「デジタルはビジネスの武器となり、業務効率化の救済者であること」を実感することができる。このようなDXの好循環を実践している事例として、前後編で2社の取り組みを紹介したい。
まずは、スーパーマーケットチェーン「Walmart(ウォルマート)」。同社の業績は好調だ。2020年第3四半期(2020年8-10月)に鈍化したものの、成長を維持している。