ビールが思いを伝える
MZ:ここまでの参加者や購入した顧客の反応で、印象的だったことはありますか?
土代:SNSを中心に「今までのビールとは違う楽しみ方ができる」「メッセージ性が強い」といったポジティブな声をいただいています。
やはり印象的だったのは昨年6月と10月に発売した「おつかれ山(さん)ビール」ですね。コロナ禍でどうしても鬱屈とした雰囲気があったので、「ねぎらいの気持ちが伝わってくる」という意見がありました。
これはアウトドアガイドをされている方の「山登りだけでなく、人生には小さな山も大きな山もある。がんばって上ってきた人、皆にささげたいご褒美のビール」というアイデアから生まれたビールです。
もし、サッポロビールが「山に合うビールをつくりました」と発売しても、なかなか皆さんが自分のこととして受け止め、ねぎらわれるような気持ちにはならないと思います。主人公のアウトドアガイドさんが自分の言葉で説明してくれると、伝わるものがまったく違ってきます。
MZ:通常の商品開発とは製造のプロセスも違ってくると思いますが、ブリュワーさんに戸惑いなどはないのですか?
土代:ブリュワーは普段、ある程度決められたスペックでものづくりをしますし、顧客と触れ合う機会も少ないです。ですから、最初は難しさがあったと思います。ただ、今ではむしろ何のスペックの制限もないところから「発案者の思いをビールにする」ことを楽しんでいる印象ですね。
発案者さんと何度も打ち合わせして、ビールの種類やアルコール度数、香りなどを決めていくのは、ブリュワー自身の感性も試されます。人生ストーリーの主人公といかに分かり合えるかが、とても大事です。
その点でもラジオでまず我々がお話を伺い、その上で直接やり取りしてもらうプロセスは有効だと思っています。
主人公の熱を上手に伝えるために
MZ:ブランドを立ち上げ、熱量のある発案者さんと接する中で、土代さんはどういった実感を得られていますか?
土代:当社では、日本中の方においしい商品をなるべく安価で届ける、いわば最大公約数的な事業が主軸です。その場合は一般的なマーケティング調査でニーズやボリュームを探っていきますが、一方でHOPPIN’ GARAGEの取り組みは「世の中に伝えたい」イシューありきの商品開発になっています。
一人に対するデプスインタビューを通して、どこをどう切り取ったらストーリーを感じてもらえるか、共感を得られるかを探っているようなものですね。私たちは編集者の視点で、雑誌づくりをしているような感覚が近いかもしれません。生活者にとっては、既存ブランドもありながら、HOPPIN’ GARAGEもあることでサッポロビールとしてさまざまな提案ができていると思います。
MZ:最後に、メーカーとユーザーが価値をともにつくることの意義について、また今後の展望をお聞かせください。
土代:確実に、我々だけでは生み出せなかった価値を持つビールが誕生していると思います。また、それが購買されているということは、生活者にも価値を認めていただいているのだと考えています。
ですから、当初思い描いた事業イメージに近づいている感触を得ています。社内にも、チャレンジングな取り組みで成果を上げることでいい影響を及ぼせたらと思います。
そのためにも、直近では定期便の拡大を促進しつつ、一方で今後はもっと、オンラインでいかに共感の輪を広げるかを模索していきます。
まだ眠っている一人ひとりのストーリーをもっと聞かせていただいて、「HOPPIN’ GARAGEが世の中にあってよかった」と思われる、愛されるブランドに育てていきたいです。
