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「イモトのWiFi」からPCR検査事業の支援へ スピード感あるトランスフォーメーション実践の舞台裏

Wi-Fiレンタルが大打撃 この状況下で有効な事業とは

——そうした“社長持ち込み企画”も絶え間ないのですね。とてもアイデアマンでいらっしゃいますが、昨年はコロナ禍の影響で海外旅行の需要が激減し、打撃が大きかったのではないかと思います。

 そのとおりです。2019年まではWi-Fi事業は非常に好調で、年間利用者数は100万人以上という状況でした。それが、昨年4月は前年同月比で98%減という危機に陥っていました。

 そのときは、夏になれば湿度や紫外線の影響でコロナウイルスも少し落ち着くのでは、という論調もあったので、せめてハワイ路線だけでも客足が戻ればと淡い期待も抱いていました。

——そんな中、昨年はPCR検査事業のマーケティングという新しいビジネスに着手され、テレビCMをはじめ広告展開も多く目にしています。どのように発想されたのか、経緯をうかがえますか?

 実は2019年から、エクスコムグローバル・グループとしてメディカル事業に進出しており、医療法人社団直悠会「にしたんクリニック」の立ち上げを支援していました。ただ、もちろん当時はPCR検査のことなどは同会も我々も頭になく、美容医療を中心に展開していました。

 一方、昨年は春を過ぎてもWi-Fi事業は戻ることなく、さすがに「何か新しいことをしなければ」と考え始めました。切り口としては、コロナ禍が主力事業にマイナスに影響するなら、逆にコロナ禍だから人の役に立ち、社会に支持されて我々の会社がプラスに転じることを模索しよう、と。そうすれば、この先にコロナ禍が落ち着いて新事業が縮小したとしても、今度はWi-Fi事業が盛り返すはずだと考えたんです。

斬新な新事業 その舞台裏

——なるほど。元々そういう構図を描かれていたんですね。

 はい。そうすれば、社内のリソースも有効活用できます。また、現にここまで何度もコロナが猛威を振るう波があり、これはどうもパッと引くようなものではないかと思ったことも、その揺らぎに対応できる事業を探った背景にあります。

 PCR検査に思い至ったのは、ちょうど昨年の初夏あたりに周囲から「検査をしたいが対応可能な機関がない」という声を複数聞いたのがきっかけでした。前述のように、当社には既に医療法人との関係がある。またPCR検査の事業は私が信条とする、社会に求められているものである。そして、医療業務は直接的に行えませんが、それ以外のマーケティングや広報、事務やコールセンター業務などはこれまでWi-Fi事業で培った当社のノウハウを一気に投じられます。ここに勝機があると直感しました。

——ニュースで拝見した際は、何と斬新な新事業だろうと思いましたが、裏側にはそうしたロジックがあったのですね。発想から実現までもとても速かったと聞きましたが、困難も多かったのではないでしょうか。

 困難の連続でした。まず実現までの流れとしては、PCR検査事業の支援を思いついて決断したのが7月20日。実際に検体(唾液)を郵送する形式を採用した検査サービスを開始したのが8月24日でした。その間に医療法人と連携して行ったことは、検査センターの整備、各種検査機器と試薬の入手、臨床検査技師の確保、もちろん法定手続きと関連各所への申請……。どれも慣れないだけでなく、スムーズにいかないことばかりで、毎日が本当に全力疾走の連続でした。

 並行して、決断した時点で、テレビCMの制作と出稿を広告代理店に依頼しました。

経営とマーケティングが直結してこそスピードが出る

——PCR検査事業を実現し、支援しようと決断した時点で?

 そうなんです。結果、なんとか1ヵ月で検査自体を開始し、翌月9月28日には日本初となる「PCR検査のテレビCM」を、にしたんクリニックとして関東地区に放送しました。第一弾はアニメーションでしたが、11月30日から全国で放映を開始した第二弾は、俳優の照英さんを起用したドラマ仕立てとしました。知名度のある方は数ヵ月前から押さえないと実現しませんから、7月の時点でタレント起用バージョンも相談していました。

——言葉を選ばずに言うと、相当な見切り発車だったわけですね。

 おっしゃるとおり、検査が本当に実現できるかわからないときにテレビCMを作り始めるなんて、大きすぎる賭けです。レストランをオープンするのに、物件すら見つかっていない段階でテレビCMを準備してしまうようなものです。でも、これはオーナー企業のオーナー社長だからできることであり、強みですね。もし上手くいかずに全部が水の泡になっても、何億で済むならいいかと、腹を括れたからできた。

 この5月から6月にかけては、また違う切り口で皆さんに覚えていただけるよう、3時のヒロインさんと錦野旦さんを起用し、インパクトにこだわった新バージョンをテレビCMおよび屋外広告で展開しました。多くのテレビCMが流れている中、抜きん出て印象を残すことを重視しています。徹底して「にしたんクリニック」の名前を覚えてもらい、また子どもが真似をするようなCMクリエイティブになっています。子どもから家庭に波及していくことを意識しました。

 当社のケースはあまり他社さんの参考にならないかもしれませんが(笑)、ただ私の経験からは、事業を速く力強く前に進めるためには、マーケティング責任者が社長本人、あるいは社長直下にいることが重要です。経営とマーケティングが直結していて、すぐに決裁を取れるかどうかが、事業を左右すると思います。

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自社の強みを活かして人の役に立つことが理念

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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2021/06/25 06:30 https://markezine.jp/article/detail/36576

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