投資対効果の測定、評価指標はどうする?
小島:投資対効果や評価指標については、どのように考えていますか。
原:「超宴」への投資は数千万円、参加者1人当たりで5,000~10,000円がかかっている計算です。参加者がロイヤル顧客となった場合のLTV(Life Time Value、生涯顧客価値)を予測し、投資が見合うかどうかを判断します。
とはいえ、すべてを数字で判断するのは難しいものです。お金も手間もかかる施策ですので、立ち上げ当初は社内から疑問の声が挙がることもありました。そこでファンイベント開催時には他部署の人も巻き込み進めていました。協力を申し出てくれたスタッフが参加者と接することで、参加者の満足度が上がりますし、スタッフ側も意義を感じるという好循環が見込めます。
小島:私もAWSでコミュニティマーケティングをリードしているときは、本社のエグゼクティブにコミュニティイベントに登壇してもらい、直接熱気を感じてもらうなど工夫しました。数字に表れない部分も含めた価値をどう伝えるかも、コミュニティマーケターに求められる資質ですね。
原:おっしゃる通りです。また、ファンの方のロイヤルティの評価指標で重視しているのはぞっこん度と推奨度の両方を高めることです。ファンイベントの満足度と購買金額は必ずしも一致しません。イベント満足度だけを追うのは不十分だと思っています。またぞっこん度が高くても、推奨度は低いという人もいます。
オンライン移行で課題を発見、新イベントを企画へ
小島:コロナ禍により、対面イベントができなくなりました。私は元々「オフライン・ファースト」として、対面での信頼構築が大事と言ってきましたが、これを「トラスト・ファースト」と定義しなおしています。原さんたちは、どのように対処していますか。
原:対面イベントは全凍結し、100%オンラインに移行しました。当社では2015年から生配信飲み会イベント「よなよナイト」を30回以上実施していたので、そのノウハウもあり、技術的には問題なく移行できたんです。
2020年5月には無料生配信の「よなよなエールの“おうち”超宴(以下、“おうち超宴”)」を開催。ライブイベントやテイスティング講座などを行い、2日間で1万人に参加いただきました。年末には「よなよなエールの〆宴(しめうたげ)」を実施し、醸造所見学ツアーなど、ロイヤル化のキーとなるコンテンツのオンライン化も試み、参加者数は二日間で1,800人に達しました。他にも、新製品発売日に開発担当者を招いて製品開発の裏側を聞くなど、小規模イベントも気軽に実施できるようになりました。

小島:オンラインへの素早い移行は、コミュニティマーケティング業界でも話題になりましたね。オンラインの長所・短所についてはどう感じていますか。
原:メリットとしては、どこからでも参加できる、会場定員の制約がない、予算が抑えられる、天候に左右されない、気軽にイベントを実施できる、など多数あります。
一方、参加者同士の交流がしにくい、お祭り感が出せない、周りの人を誘って参加する流れをつくれないなど、ファンの熱量を高め輪を広げる力が、オンラインでは弱くなります。大規模なオフラインイベントをそのままオンライン化しても、手間に見合うほど満足度は高くはなく、見込んだ効果は出せない、と判断しました。
そこで、オンラインだからこそできることを磨き、オンラインに最適化した企画を立てようと発想を転換しました。たとえば、同じビールや食べ物を楽しむなど、体験を共有する、映像と音声とテキストを組み合わせて強く訴求する、ブレイクアウトルームを使い参加者同士の双方向の交流を促す、といったことです。その考えに基づいて立ち上げた新しいシリーズが、「よなよな 月の道楽座」です。
小島:私は、単純に現状の取り組みをオンライン化する「LIFT」ではなく、オンラインに最適化する「SHIFT」が大事だとしていますが、まさしくその方向ですね。
新イベント「よなよな 月の道楽座」とは?
小島:では「よなよな 月の道楽座」について教えてください。
原:コンセプトは「いい大人に、いい遊び舎を。」ビールを飲みながら、共に学び、語り合う場として用意しました。事前予約制の有料イベントで、定員は100~150人くらいと、これまでの当社のイベントに比べると小規模です。

たとえば、ビールと合うおつまみのペアリングを体験する講座はこの6月から何回か実施してきました。ペアリング専用のおつまみは、おつまみ定期便「otuma.me」と共同開発しています。
今後も多種多様なイベントを実施する予定で、オンライン醸造所見学ツアーも企画中です。2021年の6~12月で、40回実施、延べ4,000人の参加を目標としています。