ハーレーダビッドソンを参考にファンづくり活動を開始
小島:はじめにヤッホーブルーイングさんのことを教えてください。
原:ヤッホーブルーイングは軽井沢発祥のクラフトビールメーカーです。ファンづくり活動の成功もあって18年連続で売上を伸ばし、現在は上位15%のファンの方が売上の75%を支えてくださっています。
現在国内のビール市場の99%は大手4社とオリオンビールさんが占めており、残り1%を500社以上あるクラフトビールメーカーが競っている状況なのですが、私たちの看板ブランド「よなよなエール」は、日本のクラフトビールの中で最も飲まれています。
小島:ファンとの強い絆をつくる活動が評価され、「コトラーアワードジャパン2018 最優秀賞」と「2020年度 第20回ポーター賞」をダブル受賞されましたよね。まずはコミュニティを立ち上げた経緯から、お話しいただけますか。
原:2010年頃、「継続的な成長のためには認知拡大が必要だが、使える予算は少ない」という状況の中、リピーターの方に当社製品を広めてもらえたら、と着想しました。そこで上位顧客約20人にインタビューし、よなよなエールをなぜ飲むのか、他のクラフトビールと何が違うのかを掘り下げました。
その結果を踏まえ、ハーレーダビッドソンのような、独自のライフスタイルを提案し、熱いファンの方に支えられるブランドを目指すことにしました。そして同社に倣い、ファンの方とつながり、ロイヤルティを高める施策を複合的に実施することにしたのです。
小島:なるほど。御社にとって「ファン」とはどのような人々ですか。
原:製品を好きなだけでなく、当社のミッションや活動に共感し、活動を応援してくれる人々のことです。一般的にお客様のことを「ユーザー」と呼ぶことが多いですが、ヤッホーでは「ファン」と呼んでいます。
指標としては、どれだけ製品にハマっているかの「ぞっこん度」と、NPS(Net Promoter Score)による「推奨意向度」の2軸に分け、両方が高い人を熱狂的ファンと定義しています。
デモグラフィックは30〜40代の男性、サイコグラフィックでは「知的な変わり者」。医師や海外生活経験者といった知的労働者で、お酒の経験が豊富な人が、コアなファンのイメージです。
顧客インタビューを基に、情緒的ベネフィットを解明
小島:ファン化のために、どんなことをしたのでしょうか。
原:まず、顧客インタビューで5つの情緒的ベネフィットを明らかにしました。
そしてロイヤルティの段階を引き上げ、熱狂的ファンや伝道師の人数を増やすため、ファン同士や会社のメンバーが一体となって楽しむ場を用意することにしました。具体的には以下のような施策を開始しました。
(1)オウンドメディア、ソーシャルメディアでのコミュニケーション
(2)醸造所見学ツアー開催
(3)ファンイベント「宴(うたげ)」開催
(4)レストラン「よなよなビアワークス」展開
(5)1,000人規模でファンが集まる「よなよなエールの超宴(ちょううたげ、以下“超宴”)」開催
(5)の「超宴」は、北軽井沢のキャンプ場「スウィートグラス」で泊まりがけで実施する大規模ファンイベントです。2015年から始め、最速では15分で1,000名分のチケットが完売しました。2017年からは都心でも開催し、18年にはお台場で5,000人が参加しました。2019年は1万人を目指したものの台風で中止、2020年以降は新型コロナのためオンラインに移行しています。
そこから「ファン宴(うたげ)」という、ファンの自主企画イベントも生まれました。ある回では裏テーマとして「ヤッホーのスタッフを泣かせる」というものがあり、ゲストとして呼ばれた当社メンバーは、見事に感動の涙を流しました。