各メディアで求められる、暗黙のトンマナ
島袋:やはりコンテンツプロバイダーとして、生活者の価値観の変化は敏感にキャッチされているんですね。次に「メディア環境の変化」について、この1年での変化もあれば、5年10年で見た時の変化もあると思いますが、いかがでしょうか?
屋代:みなさん昔以上に、メディア間を行き来することに抵抗がなくなっていますよね。YOASOBIもまさにそうですが、いろいろな表現媒体を越境して世界観を提示していくコンテンツが世の中に増えてきていて、その需要も高まっていると感じています。
あわせて、それぞれのメディアの特性も浮き彫りになっています。ここではこういうものを見せるべき、ここではこういう風に見せるべきといったトンマナがあって、言語化されていなくても、作り手側にも受け手側にもこれが浸透していると思います。このトンマナから外れて、メディアにぜんぜんハマらないことをやってしまうと大すべりするので、それはこわいなと思いながら日々やっています。
島袋:今のお話は、デジタル上だけでなく?
屋代:そうです、テレビもラジオも含めてですね。テレビは見ない、ラジオは聴かないということも特になく、おもしろそうだったらテレビも見るしラジオも聴く。メディア間にあるハードルは下がってきている印象があります。
島袋:最近の若い人は、「ラジオは聴くけど、ラジオは持ってない」って言うんですよね。ラジオアプリがラジオになっているというのもメディアの変化のひとつかなと思います。テレビも同様に、リアルタイムで見るという体験もありつつ、Tverなどで後から見るという体験も含めて“テレビ”になっていくのかもしれません。メディアの考え方もリセットしないといけないタイミングですね。

細野:ラジオやテレビのアーカイブを後から見る・聴くという話でしたが、一方で私はライブ感も重要だと思っています。
島袋:漫画アプリでライブ感ですか?
細野:そうです。少年ジャンプ+は毎日深夜0時に最新話が更新されるのですが、更新された直後に読んでいち早く感想をコメントしたいというニーズがすごくあるんです。いかに早くいい感想を書くか、みたいな競争のようなことが起こっていて、みんなで同時に盛り上がりたいという気持ちはあるのではないかと思っています。
島袋:漫画アプリでリアルタイムのおもしろさが求められているんですね。
細野:はい。アプリのリリース当初はコメント機能はつけていなかったのですが、これがあったほうが一体感や盛り上がりが出てくるに違いないと考えて実装しました。ほかにも、閲覧数がリアルタイムで表示されるようになっていて、これには漫画家さんや編集者同士でよい競争関係が生まれればという狙いがありました。
あの手この手でファンとの接点を増やしていく
島袋:monogatary.comに関しては、YOASOBIは知っているけど、小説投稿サイトの存在は知らないという人もいるのかなと思うのですがどうでしょうか?
屋代:そうですね。やはり音楽のほうがフットワークが軽いので、音楽をきっかけに知っていただくことのほうが多いです。さらに深掘りした先に物語というコンテンツがあることは体験としておもしろいと思うので、大事にしていきたいと思っています。
monogatary.comは、立ち上げる時から「小説を作ろうとしているわけではない。ここでコミュニティを作って、その熱量をもって別の表現方法でアウトプットしていきたい。ソニーミュージックなら音楽以外でも様々なアウトプットをできる環境があるから、それを活かしていきたい」と、ずっと話していました。
細野:コミュニティによる熱量というのが最初から狙いとしてあったんですね。
屋代:そうですね。小説投稿サイトとしては後発も後発なので、数ではなく熱量の高いコミュニティを作ることが重要だと考えていました。
島袋:YOASOBIのプロモーションは実に立体的で、メディアミックスの域を超えていますよね。7月にはユニクロとのコラボ企画も控えていて、身近に感じることが多々あります。
屋代:ありがとうございます。ちょうどこの代官山蔦屋書店さんで、今年の3月から4月にかけて、YOASOBIとの文通企画「LETTER FOR YOASOBI」という企画もやらせていただきました。YOASOBIにお手紙を送っていただき、それに対してお返事を届けるという内容だったのですが、このようにアーティストとファンの接続点を増やす努力は続けなければいけないと思っています。同じことを続けていたら飽きてしまうし、どんどん小さくなっていくので、常に新しいことをやり続けたいですね。
