コカ・コーラが取り組むコンテンツの制作・管理
前回は、1st Party データの活用について論じる中で「Sephora(セフォラ)」のセッションからCXM(顧客体験管理)の事例を紹介した。今回も引き続き、CXMのより深い理解に役立つ事例を紹介する。
「Coca-Cola Company(コカ・コーラカンパニー)」のGlobal IT Portfolio Directorであるメーガン・ヘザー氏は、「優れた顧客体験創出のためには、顧客データ主導で世界中の顧客にパーソナライズされたコンテンツを届け、ストーリーを伝えて自社のエコシステムに誘導することが重要だ」と述べ、コンテンツの作成・管理・評価を民主化させることの必要性を説いた。
デジタルの進化により大量のコンテンツが作られる中で、現在のコンテンツのライフサイクルをふまえた作業の迅速化と効率化はマーケターの最優先事項であり、コンテンツのPDCAと優れたコンテンツの拡張、そしてそれらを売上につなげることが、これからのマーケターに求められる資質だという。
AIや外部サービスとの連携でコンテンツ管理を効率化
セッションでは、Coca-Cola Companyがどのように「Adobe Experience Manager」を駆使し、コンテンツを重要視したマーケターの業務効率化と、価値創造を行っているのかが解説された。特にCXMに欠かせないと感じた4つの機能を紹介する。
1.多くの人が使い慣れている「Adobe Photoshop」との連携
2.作業を効率化させるAI「Adobe SENSEI」の活用
3.共同作業ツールの「Adobe Workfront」との連携
4.様々なチャネルで活用するためのヘッドレスCMS
まず、1と2の機能を活用した具体的な作業イメージとしては、Adobe Experience Managerにある画像をAdobe SENSEIが自動で編集。さらにPhotoshopを活用して、瞬時に画像の切り抜きや背景色の変更、コンテンツタグ・カラータグの付与を行っているという。これにより、検索性が高まるのと同時に背景の一斉作成などができる。
同社がセッションで示したデモでは、サスティナブルボトルを訴求するコンテンツにおいて、コカコーラであれば「赤」スプライトであれば「緑」ファンタであればフレーバーによって異なるカラーの背景色が使われていた。先述の環境では、それらの背景の変更作業にマーケターが時間を費やす必要や、外部に委託して加工してもらう必要はない。
またAdobeでは、2020年11月に買収したマーケティング担当者向け作業管理プラットフォーム「Workfront」とAdobe Experience Managerとの連携を早くも実施。従来のコンテンツ管理では、扱うコンテンツとそのカスタマイズの量に比例して、過去のコンテンツや未完成のコンテンツを誤って使ってしまうなどのリスクが急増する。この連携は、大量のコンテンツを管理するためにチームで行う作業の環境を整え、進捗やバージョンの更新などの管理を万全にする。
マーケターによるマインド/スキルセットの転換が成功の鍵
また、ヘッドレスCMSの実装で「コンテンツの生成・管理」と「フロントサイドへの表現」を分けることができるのも魅力的だ。モバイルアプリやWEBアプリなどとAPIで連携し、ネイティブに動作させることが可能になると、表現方法や表示速度など顧客体験に直結する部分までコントロールしやすくなる。
あえて細かい機能を伝えたのは、CXMがツールの導入やシステム構築で終わるものではなく、顧客体験を作るマーケターのマインドセットとスキルセットの転換を必要とするからだ。顧客を理解し、コンテンツを通じてストーリーや体験を届けることをマーケターがスピーディーに行うには、単純作業や外部委託による時間の無駄をなくし、チーム一丸となって膨大な量のコンテンツを管理・評価することが成功の秘訣となる。
1st Party データを活用しながらリアルタイムにコミュニケーションをしていくには、クリエイティブとコンテンツを民主化し、多くの従業員がそれを活用できるようにしなければならないのだ。
Pelotonでは「傾聴」が企業カルチャーに
「Peloton(ペロトン)」は、コネクテッド・フィットネスという新しいカテゴリーのビジネスだ。ここ数年、ビジネスの話題の中心に君臨しているので読者の皆様も色々な情報を持っていると思うが、単に「エクササイズバイク×WEBトレーニング」のサブスクビジネスのパイオニアというだけではなく、顧客を中心としたDXのパイオニアでもある。
顧客体験と従業員体験をどのように企業カルチャーとしているのかを、SVP Head of Global Marketing and Communicationsを務めるダラ・トレセダー氏が情熱的に語ってくれた。
Pelotonには、顧客の生活を向上させることに重点を置き、従業員全員が「メンバーのためになることは何か」と尋ねることができるような素晴らしい文化があるという。それは、顧客の声に耳を傾けて「顧客が私たちに何を求めているのか」「どうすれば顧客の生活を改善できるのか」「どうすれば顧客の人生をより良いものにできるのか」を聞き、顧客の意見を行動指針としているということだ。
顧客は誰でもコミュニティのタグを作ることができるので、共通の悩みを聞くことができる。たとえば「#ペロトン・ママ」「#ペロトン・ワーキング・ママ」「#ペロトン・ベテランのブラック・ガール・マジック」などのコミュニティだ。
現場で生まれるリアルなコンテンツが強み
顧客の声を聞いて、それを実現する手法をPelotonは持っている。トレセダー氏が「Pelotonはテクノロジー企業であると同時にコンテンツ・メディア企業である」と言うように、リアルな健康・ウェルネスコンテンツを作ることができるのだ。
台本などはないリアルな場において、優秀なインストラクターたちが毎日バイクやトレッド、マットの上でコミュニケーションを取りながら作り出す。このリアルなコンテンツこそが、ブランドメッセージをパワフルに発信できる差別化要素なのだ。
ブルームバーグが2021年1月に掲載した記事では「More-senior instructors make upwards of $500,000 in total compensation.(Pelotonのシニアインストラクターの総報酬は50万ドルを超える)」と書かれており、驚くとともに納得もした(出典:Bloomberg Businessweek「Peloton Moves Into Breakaway Mode to Secure Its Sudden Dominance」)。デジタルは模倣困難性が高いものではないことを熟知しており、差別化となるコンテンツやそれを作れる人への投資を怠らないのだ。
マーケティングの中のデジタル活用へ
トレセダー氏は「1st Partyは絶対に参加しなくちゃいけないパーティーよ」と冗談まじりに言ってから、次のように語った。
「1st Party データは、顧客との信頼関係を築き、安心して提供してもらう情報。その情報を基に付加価値となる体験を提供すれば、相互に有益な関係を築くことができる。従来のデジタル広告は顧客の生活の邪魔をしていた。顧客と生活に割り込むのでなく、会話する必要がある」
これら3つの先進的な事例は、DX・CX・EXが互いに切り離せない存在だと明らかにしている。Cookieless時代の到来とは関係なく、「デジタルマーケティング」を捨て、「マーケティングの中のデジタル活用」に全社一丸となって向かわなければいけないということであろう。
Adobeは「Adobe Experience Cloud」を提供することで、その実現方法を示してくれた。「コンテンツ&コマース」「データインサイト&オーディエンス(顧客理解やCDP)」「カスタマージャーニー(コミュニケーションの実行)」「ワークフローの連携」に、システムの導入が欠かせないのは事実である。企業はシステムを活用した上で、差別化要素となる自社の強みとして「顧客とのつながりや従業員の役割」を考え直す必要があるのだ。