パーパス・ブランディングは利益と相反するのか?
MZ:パーパス・ブランディングを進めていく中で、利益と相反する場面が出てきた時にはどう判断すればよいのでしょうか?
齊藤:パーパスに即した活動をしていて、プロフィットが出ないのであれば、今一度そのパーパスを問い直す必要があると思います。パーパスというと、何かいいことをしているような感じがしますよね。だからこそ、利益に結び付かないというイメージを持たれがちなのですが、そうではありません。私たちの定義では、「パーパスはその企業や組織の強みと情熱、そして社会からのニーズが交差するところに存在する」としています。したがって、結果が伴わないということは、その強みが実際は強みではない、あるいは社会からのニーズがない、などが考えられます。私たちは、パーパスドリブンで経営やブランディングをやっていくと、最終的には数字がついてくるという考え方でコンサルティングをしています。
とはいえ、パーパスは絶対的なものなので、変えてはならないものではありませんが、基本的には短期間で変えるようなことはしないほうがよいです。中長期的に取り組む必要はあることは前提として、利益が出ない時には、戦略やストラテジーを見直して利益が出る体制を作っていくことが重要であると考えています。
MZ:ちなみに、齊藤さんの一番好きなパーパス・ブランディングの例は?
齊藤:すごく悩みますね、本当にたくさんあるので……。ですが、今ひとつ挙げるなら、やはりソニーでしょうか。
ソニーからウォークマンが発売されたのは、私が小学生の頃でした。今ではごく当たり前のことですが、当時は「音楽を持ち運べるんだ!」と、世の中に大きな感動をもたらした製品だったんです。まさに、ソニーが光り輝いていた時代でした。
しかし、ソニーにも数年前にブランドが低迷した時期がありました。その時に取り入れたのが、パーパスです。パーパスをもとに経営判断をし、行動していった結果、もちろん事業は回復していますし、みなさんも感じておられると思いますが、ブランド力も非常に上がってきています。さらに、金融・メディカル・モビリティと多数の事業を展開している中で、どの事業にもパーパスが浸透しているので、本当に素晴らしいなと思います。
――日本でも、2019年初めにソニーがパーパスを策定しました。前年に社長に就任した吉田憲一郎氏は、パーパス策定の経緯について「社長に就任してからの1年を振り返り、最も重要だったのは、Purpose(存在意義)の定義。この会社を長期的に持続可能にする存在意義とは何かを明確に定義し、共有したいと思っている」と発言しました。
『パーパス・ブランディング 「何をやるか?」ではなく「なぜやるか?」から考える』より引用
パーパスを武器に、本来の強い日本ブランドを取り戻していく
MZ:これから日本でどのようにパーパス・ブランディングが浸透していくと期待されていますか?
齊藤:「パーパス」という言葉はアメリカから入ってきたものですが、もともとは日本にとてもマッチする考え方であると思っています。「三方良し」という言葉があるように、短期的な利益に囚われず、中長期的にみんなが幸せであることを目指す考え方が、かつての日本にはあったからです。
経済最優先の時代の中では、短期的な利益のみを追求し、結果的に企業やブランドが崩れていってしまうケースが多々見られます。しかし、経済最優先の傾向もこのコロナ禍で少しリセットされたように思っています。現代の考え方も取り入れながら、もともと日本にあった理念経営の考え方を取り戻して、強い日本ブランドが増えていくとよいですね。
MZ:最後に今後の展望をお聞かせください。
齊藤:我々は自社のパーパスを「本物を未来に伝えていく。」としています。「パーパス・ブランディングが流行っているみたいだから、とりあえずうちもやってみよう」と取り組みを始められる企業もありますが、長く愛されるブランドを作りたい、自分たちの魅力をもっと広く長く伝えていきたいと考えている企業様と、パーパス・ブランディングを一緒にやっていきたいですね。