マスメディア接触が激減する中でのメディアビジネス
有園:今年5月、NHKがメディア利用に関する調査「国民生活時間調査2020」を発表しました。5年ごとの実施なので、前回は2015年ですが、この5年でメディア接触が激変していることが浮き彫りになりました。平日に15分以上テレビを見た人は、10~20代で約20%減少し、50%前後になっていたのです。
併せて、社会全体で新聞や雑誌への接触が減っているのも皆さんご存知のとおりだと思います。当然、それらマス媒体はネットに進出していますが、Webメディアも群雄割拠の状況です。そこで今回は「Webメディアのブランド確立と収益化」をテーマに、「User Insight」や「Social Insight」などの解析ツールを手掛けるユーザーローカルの伊藤さんにお話をうかがいます。伊藤さんは実は早稲田大学のゼミの同窓生で、業界内でいちばんと言えるほど付き合いが長い方です。
伊藤:私はもともとエンジニアですが、有園さんがIT系に来られたのは意外でした。
有園:伊藤さんは1990年代当時から、自分でHTMLを書いてゼミの初代ホームページをつくったり、Webサービス「みんなの就職活動日記(以下、みん就)」を開発したりしていましたね。ビジネス系出版社を経て、楽天に勤める傍ら「みん就」を事業化・譲渡し、大学院を経由してユーザーローカルを創業されています。
御社のツールは幅広い企業に導入されていますが、メディア向けのコンテンツ分析ツール「Media Insight」はメディア向けの分析ツールです。そもそもマスメディアとWebメディアの違いはどういう部分だと思われますか?
伊藤:Webメディアは、日によって読者数が大きく変動します。昨日まで10万PVだったのが、コンテンツによって今日は100万、200万PVに上る、ということもあります。しかし反対に、しばらくしたらまたPVがもとに戻ってしまうこともよく起きます。
メディアブランドの確立=アクセスの習慣化
有園:たとえば雑誌だと、そこまでの変動はないですね。
伊藤:10万部売れた翌月号が1万部ということはありません。ユーザーの大幅変動が、マスメディアにないWebの特徴です。
これはつまり「一度来てくれた読者が次は来ない」可能性がとても高いと言えます。そこを何とか定着させて、ファンを増やしていくことが、Webメディアにとって最も大事な課題だと思います。それを基軸に、どうブランドを確立していくかを考える必要があります。
有園:メディアの数、コンテンツの数自体も爆発的に増えているなかで、継続的にアクセスしてもらわないといけない。
伊藤:そうなんです。記事1本がバズとなっても、その場限りのトラフィックでは、ブランドは確立できません。アクセスの習慣化が必要です。広告収入の点でも、たまに100万PVがあったとしても平常時が10万なら、そちらをベースにした出稿費になってしまいます。
有園:もちろん、1本ごとのコンテンツが良質であることは前提ですが、アクセスを習慣化するためにはどうすればいいのでしょうか?
伊藤:ひとつは「関連記事」の工夫です。メディア関係者から、よく「平成はYahoo!ニュースの一強時代」と聞きます。ポータルサイトという場が登場して、皆に「Yahoo!でニュースを読む」という習慣が根付いた結果、個別の媒体を訪れる習慣が薄れてしまったんです。
Yahoo!トピックに載れば記事流入が増えるので、大事な流入経路になっているのは事実ですし、Yahoo!に最適化していくのもひとつの戦略です。ただ、自社メディアをせっかく訪れた人にメディアを認知してもらい、次は直接来てもらえるようにするには、メディア内での回遊がポイントです。その促進となるのが「関連記事」です。記事ランキングも同様ですね。