宮坂祐氏のコンサルティング論
私は、宮坂氏と仕事をしていて、いつも魅せられていたことがある。宮坂氏はよく、「ちょっと引いた視点で見てみると、どんな景色が見えるのかっていうと……」という感じで、いわゆる鳥瞰図的な高い位置から全体を見渡すようにアドバイスをしていた。これが、絶妙のタイミングで会議の流れをよくみながらやっていて、本当にうまいのだ。
我々は皆、自分の担当領域に焦点が固まっていて、全体を見渡すことが苦手である。現場の担当者は現場のこと、役員は役員の視点、自社の利益ばかりでユーザーや消費者の視点を見落とす、あるいは、パートナー企業やクライアント企業へのメリット、そして、その担当者のことを考慮しない。
宮坂氏のコンサルティングは、この固まった視点を解放する。我々を取り巻く対象から視線を遠ざけ、俯瞰的な地点にプロジェクトメンバーを引き上げるのだ。これは、宮坂氏の得意技だった。そして、そんな宮坂氏の美しい会話術を見るたびに、私はいつも、パスカルの『パンセ』を思い出していた。
「人間は考える葦である」で有名な17世紀フランスの哲学者・数学者のブレーズ・パスカルは、彼の遺稿『パンセ』に記している。
「だから人間よ、自然全体の崇高で完璧な威容に見入るがよい。自分を取り巻く低俗な対象から視線を遠ざけ、宇宙を照らす永久の灯火のように据えられたあの輝く光明を凝視するがよい。この天体の描く広大な公転軌道に比べれば、地球も人間の目には一点としか映らなくなるが、この巨大な軌道さえ、天空を経めぐる諸天体が運行する軌道に比べれば、微細な針の先にすぎないことに驚愕するがよい。しかしもし私たちの視線がそこに留まるなら、想像力がその先に進むがよい。いくら想像を膨らませても、自然の豊かさを汲みつくす前に、想像力はくたびれ果ててしまうだろう。」
『パンセ (上) (岩波文庫)』パスカル, 塩川 徹也著
宮坂氏は、宇宙から見下ろすような視点まで我々を引き上げて、そして、次に微細な領域に戻ってくる。
「しかし、もう一つこれと同じぐらい不思議な驚異を目の当たりにするために、人間よ、自分の知っているものの中で最も微細な事物を探求するがよい。一匹のコナダニは、その小さな体のうちに、それよりはるかに小さな部分、脚とその継ぎ目、脚の中の血管、血管の中の血液、血液の中の溶液、溶液の中のしずく、しずくの中の蒸気を示すが、この最後のものをさらに分割して、より小さなものの概念を形作ることに力を尽くすがよい。このようにして到達できる最終の対象を、今や私たちの議論の対象とするがよい。」
『パンセ (上) (岩波文庫)』パスカル, 塩川 徹也著
