LIFULLのアクション3事例
畠山:私からは、LIFULL内での3つの象徴的なアクションをご紹介します。
第1に「しなきゃ、なんてない。」というコンセプトのもと、生活者に向け「既成概念にとらわれないLIFEの無限の可能性」について共感していただくコミュニケーション活動を継続的に行っています。これについては、先ほどお話ししたパーパスに基づき、LIFULLがどのような価値を提供できるのかを考え、人々の可能性を阻んでしまう既成概念からの解放を訴求するため、「しなきゃ、なんてない。」というコンセプトが生まれました。
このコンセプトに基づき2018年には宣言期として企業CMや、SNSを通じて「『しなきゃ、なんてない。』と思うことは何ですか」と問いかけるキャンペーンを実施しました。また、昨年はコロナ禍もあり暮らしの価値観が大きく変わるなか、弊社で行っているビジネスプランコンテスト「OPEN SWITCH」を活用しながら、暮らしの変化から生じる課題を解決する事業アイデアを募集する取り組みも実施。
2021年は、「しなきゃ、なんてない。」という未来を、LIFULLが展開する事業で実現していくという姿勢を伝える新CMや、既成概念にとらわれない生き方を実践されている方を表彰する「しなきゃ、なんてない。」アワードを開催しました。
第2のアクションは、全社イベント「LIFULL SOCIAL INNOVATION FORUM」という従業員向けの取り組みです。これは弊社独自の視点でアジェンダを掲げて、事業を通じて社会課題を解決していく姿勢に共感し、社員一人ひとりが自分ごと化していくための取り組みです。
弊社では、現在、社会の変化から個人の課題や世の中の課題を発見し、それを解決するためのアジェンダを、重点事業領域を中心に掲げています。この「LIFULL SOCIAL INNOVATION FORUM」は、社員一人ひとりが、自身が考える社会課題を自分たちなりに見つめ、解決に向けたアイディアを考えて発想を広げていくイベントです。「INPUT」「WORK」「IDEATION」「OUTPUT」を4日間のイベントで、全体で約700名が参加しました。ここで出たアイディアを社内の新規事業提案制度につなげ、新たなアクションを生み出すことを目指しています。
第3のアクションは「FRIENDLY DOOR」という取り組みです。これは高齢者や外国籍といった諸事情により、住宅を借りにくくなっている「住宅弱者」の方に向けたもので、悩みを抱えている方々と相談に応じてくれる不動産事業者をつなぐLIFULL HOME'Sのサービスです。また、当事者である「住宅弱者」の方ではなく、不動産事業者や生活者に向けて「住宅弱者」という存在を啓発する活動や、偏見をなくすための広告・ポスターを制作しています。その他にも、ポータルサイトを運営するLIFULLの取り組みとして不動産業界では初めてLGBTQの方への「LGBTQ接客チェックリスト」を作り、業界全体でこの課題の解決を推進できるように取り組んでいます。
ボトムアップとトップダウンの両方が大事
室:畠山さんから先ほど「1人ひとりの行動と関連付けることが重要」という話がありましたが、ライオンさんでは「子ども、ミント農家、従業員」、LIFULLさんは「生活者、従業員、社会弱者」を巻き込みながら、会社を動かす活動を進めているわけですね。こうした活動において、トップダウン型がいいのか、ボトムアップがいいのか、もしくは組み合わせていくのか、どのように進めるのが良いのでしょうか?
阿曾:きっかけがトップダウンだったとしても、具体的なところはボトムアップで作っていくのがいいかと思います。たとえば、インクルーシブ・オーラルケアのNPO法人2社との子どもたちの社会課題の取り組みは、寄付活動はトップによる意思決定でもありましたが、実際の具体的な活動や子どもたちとのプログラムづくりは、サステナビリティやUX設計を担当している社員が中心となって、NPO法人2社の関係者の皆さまと活動を進めています。
畠山:私もトップダウン・ボトムアップ、両方大事だと思います。トップダウンは、未来からバックキャスティングして「現在企業がどうあるべきか」という視点がある一方で、現場の目線はフォーキャストで「今のあるものの価値をどう高めていくか」という視点だと思います。まさにこの2つの視点は「PURPOSE」と「VALUE」の視点だと思っております。
室:ありがとうございます。ここまでの内容をまとめたいと思います。まず「パーパスをどのように規定するか」については、その会社だからこそいえるファンクショナルな活動の延長線上にある社会的存在意義を追求し、さらに具体的なアクションにつなげられるように考えていくことがポイントになります。
「いかに具体的なアクションに落とし込むか」に関しては、先ほど紹介した新しい4Pモデルのようなフレームワークで考えていくと進めやすいと思います。またトップダウン/ボトムアップという話もあり、それぞれの良いところを取り入れて進めることがポイントです。
こうしてパーパスに基づくブランドアクションがあると、事業の捉え方が変わり、ステークホルダーとの関係性が変わり、組織の競争力が向上し、事業の収益性が向上していく。これが理想的なパーパスドリブンカンパニーでしょう。
パーパスの先に見据えるものとは
室:最後に、おふたりからそれぞれ「ブランドパーパスの次に意識していること」を伺えますか?
阿曾:ブランドパーパスや2019年のカンヌライオンズで示されたブランドアクティビズムという考えは、あくまでブランド起点での考え方だと思います。その先については、社会との「関係性」に行くのではないかと考えています。「相手が語る社会の望ましい物語に対して、社会を構成する企業や組織もその構成員として、物語を如何にしてつくっていけるか」という点が重要になってくるのではないでしょうか。ナラティブ・アプローチという考えは、もともとK・J・ガーゲンの「社会構成主義」という思想から出てきたと思うのですが、そのあたりが今後はもう少し注目されてくるのかと意識しています。
畠山:あるブランディングファームも、to be=企業の存在意義、to say=どんなナラティブで、to do=どうアクションするかということを提唱していますが、ただそれだけではなく、アクションの次のアウトカムをどう作っていくのか、どんな影響を与えるのかを意識する必要があると思っています。パーパスを掲げても、その意義を果たせているのかどうか、多くの人が着目していると思うので、そこは意識して活動していきたいですね。
室:ありがとうございました。