ターゲットとのヒアリングを重ね「当たり前」を疑う
リブランディングするにあたり、インフルエンサーとのブランド共創にも取り組んでいった。
発売前の段階から数名の美容系インフルエンサーから商品のパッケージデザイン、売り場の購買行動などについてヒアリングを重ねた。こうした中、企業として無意識のうちにもっていた固定観念を覆えされることがたびたびあったという。
たとえば売り場とパッケージの情報量のバランスについてだ。「商品よりも売り場を見るとお話しされていて。売り場のキャッチコピーを見て、テスターで試してみる。商品を買おうと手に取った際に、本当に自分が欲しいもので合っているか確認できる情報、商品名や品番、色名などが書いてあればいいというのが印象的でした」(伊藤氏)
こうした意見をもとにキャッチコピーは売り場に設置。商品パッケージは必要最低限なものに決めた。「このような形で進めることができたのは、今回のリブランディングプロジェクトで副次的に得られたメリットかなと思っています」と伊藤氏は語った。

リブランディング後のFASIOは、ブランドカラーを4色使用している。一般的には、ブランドの世界観を醸成するには統一感が重要で、商品デザインや売り場、プロモーションで使用されるブランドカラーもすべて統一しなければいけないという固定概念があった。
しかしインフルエンサーからヒアリングを重ねるうちに「かわいいと感じる色が集合していることが、彼女たちにとって非常に魅力的に映り、必ずしもブランドカラー1色に限定する必要はない」と気づいたという。
「実際お客さまからも好評をいただいていますし、世界の3大デザインコンペティション『レッドドット・デザイン賞』でもパッケージングデザイン部門で全世界から1万点以上の応募から受賞することができました」(伊藤氏)

なぜ、リブランディングを選択したのか
今回リブランディングを提案し、独自のチームを編成してプロジェクトを推進した伊藤氏だが、「リブランディングはあくまで1つの手段で、リブランディングに固執してはいけない」と語った。
ブランドの売上拡大を目的にするなら、プロモーション方法の変更や売り場面積の変更など様々な選択肢がある。その中から、最も適した手法はどれか、根拠をもって選んでいくことが重要だ。
実際、社内で決裁を通す際も「本当にリブランディングを実施する必要はあるのか? プロモーションやCMの伝え方を変えればいいのでは?」といった声は多かったという。それでも、伊藤氏は自らの仮説と定性・定量調査による現状把握を根拠に、リブランディングという手法を選んだ。
「今回はブランドの核となる『落ちない』という価値だけではもはや戦えませんでした。またメインターゲット層を大きく変えたいという前提があり、リブランディングという手法を取りました」(伊藤氏)
そして伊藤氏は、リブランディングをする・しないで悩む企業に向け、アドバイスを送りセッションを締めくくった。
「まずは、妥協せずに一つ一つの選択肢を考え抜くこと。その中でなぜリブランディングを実行しようと考えているのか、データやユーザー調査で得た意見をまとめたうえで説明するしかないと思います。『あらゆる手段を考えたうえで、最適解としてこの手段を選んだ』と説明できるような下準備がとても大事です」(伊藤氏)